第1回 なぜ今「食育」なのでしょうか

先輩の熱意と指導力で「栄養士」として学校給食にかかわり39年、時代に応じて栄養士の卵と共に学び11年。現職時代とは違った角度から食育参加を考えてみたいと思います。まず、変化を遂げてきた日本の食を取り巻く現状について少し考えてみましょう。

食育基本法施行と栄養教諭誕生の背景

少子高齢社会の医療費の増加、右肩上がりの生活習慣病等は、食生活を含む生活習慣を改めることで30%は減少されると言われています。食育基本法が施行され、食育推進基本計画が作られたことで、指導にかかわる全体計画が作成されました。そして、栄養士たちの長年の念願であった「栄養教諭」が誕生し、学校教育が要となって、生涯を通じた健康づくりに取り組む体制が整いました。

学校のなかでの食育計画

食育基本法では学校長をリーダーとして関係教職員が連携協力しながら、栄養教諭が中心となり年間計画に基づいて組織的・計画的に取り組むことが明示されました。学校での食育は、給食の時間、総合的な学習の時間、特別活動、各教科のさまざまな教育内容に密接にかかわっており、計画的・体系的に指導することができます。

教職員全体が食育に関して共通理解することで、目標や具体的な取り組みが得られます。児童・生徒が理解を深め、学んだことを家庭に持ち帰り、地域社会で取り組み、日常生活において実践していくことが望ましく、それが身についた食育となるのです。

初のランチルーム実現まで

組織は人と人との集合体です。栄養士だけが先走ってもいけませんし、校長先生だけががんばっても意味がありません。食育を実施するうえで、頭で考えて「これは難しいだろう」と声をあげる先生ももちろんいます。それはなぜなのか、そこを話し合う必要があります。最終的には「子どもたちのため」ということを忘れずに、栄養士は仮説を立てて教職員に提案してみてください。納得を得られることもあります。

私は人間関係にとても恵まれておりましたが、それでもさまざまな壁に当たったことがありました。今でも心に残っているのは、昭和62年に杉並区内で初めて「ランチルーム」を作ろうと提案した時のことです。校内に物置になっている部屋がありましたが、3方を窓に囲まれた明るい部屋でした。北側で冬場は寒く授業として利用することはできませんでしたので、そこに目をつけたのです。校長先生、給食主任、調理師さんたちに事前に相談した上で、教職員全員に話してみました。その時2人の先生から「去年までやっていなかったことをなぜ始めるのか」と反対を受けました。その先生方は、ランチルームに連れてくることで給食の準備や食べる時間が短くなることを心配していたようです。

協力者は必ず現れます

そこで私は、これまで見学してきた学校のランチルームについて説明し、その役割を話し、担任が教室から児童をランチルームに連れてくる間に、私自身が手伝える段取りはしておきますと話しました。例えば牛乳を机の上に置いておく、果物はテーブルごとに1つの皿にまとめておく、などです。そうしたところ反対していた2人のうち1人の先生は賛成してくれました。もう一人の先生はまだ反対していましたが、その時他の先生が「栄養士がこの学校に来たことで、給食はおいしくなりました。教育は実践なのです。やってみましょう」と話してくれたのです。

今は栄養教諭も増えてきていますが、当時はいくら栄養士が説明しても難しいことがありました。そんな時、仲間の先生が話してくれることは心強くもありました。おかげで、ランチルームを作ることが決まり、夏休み返上でランチルームを完成させました。先生方も手伝ってくださり、本当にすばらしいランチルームを作ることができました。子どもたちの喜ぶ姿を見て、ランチルームはさらに進化し、子どもたちの登下校を見守るボランティアの方までもが、季節の花などをかたどった折り紙を折ってくれたりと、多くの方の協力がありました。

反対者が良き協力者になる

また、栄養士は調理師さん方との関係も築かなければなりません。ランチルームを作る際も、調理師さんからも労働過剰を心配する声があがりました。ですが、調理師組合の方のフォローもあり賛同を得ることができました。調理師さんとは献立を作る際にも話し合わなければいけないことがありますが、私は「この献立は大変ではないか」という声があがったときには、まず自宅で作って持っていき味見をしてもらっていました。

一人でも賛成の声があると心強いです。どうしてもだめたった場合は、夏休み前などの給食最後の日に作って「前に提案していた献立です」と持って行きました。給食最後の日はお互いに心身共に余裕がありますので、ゆっくり話をすることができます。また、子どもたちが「今日の給食がおいしい」と報告してくれたときには、「調理師さんにも言ってあげてね。作ってくれたのは調理師さんなんだよ」と言うように心がけていました。食べた感想を子どもたち自身が調理師さんに話すことで、調理師さんも喜びます。

教職員さまざまな思いがありますが、私が感じているのは反対や心配の声をあげた人ほど良い力やアイデアをくれることがあるということです。最初の反対にはそれなりの理由があるということでしょうね。

志を高く、毎日が研鑽です

栄養士、栄養教諭は志を高くたててください。ある大学の教職課程で講義をした時に、最初は後の席に座っていたある学生が前の席に移動して熱心に講義を聞いたあとで「自分にとって栄養士とは?」という質問をしてきました。私は、仕事が世の中のために役立てるかを第一に考えて働いてきました。そのために栄養士として何が必要か、食を通じて人を元気にする仕事なのだから自分自身がいつも元気でいることが大切だと思っています。

そういった話をしたあと、その学生は「先生の働いている学校に給食を食べに行きたいです」と申し出てきました。私は早速校長先生に相談し、許可をもらいました。学生は給食を食べる子どもたちを見て、そして自分も給食を食べて「絶対に教員になります!」と帰っていきました。本当に嬉しい出来事で校長先生も「栄養士冥利につきるね」と声をかけてくれました。

私は栄養士として学校現場で働いていた頃、雑誌3冊と新聞2紙を読んでいました。新聞には生きた情報が詰まっています。端から端まで読み、教材として使うこともありました。そして機会を見つけてはあらゆる講習会に参加していました。科学の進歩により、去年聞いた話が今年は通用しないこともあります。さらに集団給食、保育園、幼稚園、病院(自分が入院していた時ですが)などさまざまな給食の状況に足を運び学んできました。高齢化社会の日本の食を考える上で、各世代を学ぶ必要があると思っていたからです。

一つのさつまいもから食育を啓発

栄養士は温かな人間味をもって教職員や保護者、地域の方々と良好な人間関係を築いてください。家庭に情報を発信する時は校長先生の許可を得ることになりますが、独走せずに教育目標をきちんと考慮して発信してください。その際、栄養士でなければわからない情報というのが生きてきます。1日1日の給食の情報を、子どもたちがどれだけ家庭に持ち帰ることができるかが、食育の鍵となります。その際学級担任の力を大いに借りてください。

例えば、学校で育てて収穫した「さつまいも」を子どもたちに1本持たせた日があったとします。それを使って何を作ったか、家庭の情報を学級担任に聞いてもらってください。それを聞いたうえで、これは保護者の方が家庭で考えたメニューです、とお知らせして給食の献立に組み込んでも良いでしょう。そして保護者へは学校給食ではさつまいもを使ってこういった献立を作っていますよと一覧表をお渡しします。双方向の意見を交換することで、学級担任が学級経営のなかで食育を啓発することにもつながっていきます。それにより、共通理解、協力体制が生まれ大きな力となって学校組織を動かし、すばらしい食育の実践活動により目標が達成されることでしょう。本コーナーが少しでもその手助けになれば幸いです。

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