第1回 「食は“ひと”づくり」を確信

社団法人全国学校栄養士協議会 会長・市場祥子さん

栄養教諭が全国に配置されたことで、学校・保護者・地域など関係者の食育への理解が一層深まり、協力体制が強まったことを日々実感しています。指導と給食管理を一体化して取り組む栄養教諭の職務は体力的な負担はありますが、会員からは、「精神的には充実感や達成感が感じられて、疲れを忘れる」といった声が多数寄せられうれしく思っています。

「給食室登校」から卒業までを見守り

私は平成13年から定年まで、長野県の真田中学校で最後の3年間を過ごしました。この学校での経験は特に、「食は体の健康だけでなく心も育むことができる」ことを確信する貴重なものとなりました。それは3年生の不登校生徒の「給食室登校」を行ったことです。
給食を食べに来ることを通して、登校できるようにしてあげることはできないか、そしてみんなと一緒に卒業式に臨んで欲しいと思い始めました。「給食は食べに来たい」という生徒の思いを受けて調理員も賛同してくれ、まずは、給食室で一緒に給食を食べることにしました。
「おはよう」「いただきます」「ごちそうさま」などの基本的な挨拶をすることから始めましたが、無表情で言葉もなく下ばかり向いていた生徒が次第に表情や言葉を取り戻し、頬の色がピンクに変わっていきました。笑顔が見られるようになり、やがて自然に同級生とも触れあえるようになり、最後は級友と一緒に卒業式に出席し、皆さんに祝福されて卒業していくことができました。「食は心も育む」ことを大いに実感できた3年間となり、今、食育の重要性と共に、この食のもつ力のすばらしさを全国に発信しています。

調理員の意識改革「待たれる給食」に

当時はまだ栄養教諭制度は実現していませんでしたが、できるかもしれないという気運が感じられる時期だったので、「栄養教諭になったら学校給食を教材化して、どれくらいの食育ができるのか…」できることを実践してみようと考えて、取り組んでみました。まず1年目は、学校給食が教材として活用できるように、実践できると思われるあらゆる面から見直しました。

  • 旬の食材・地場産物の使用
  • 食文化の配慮
  • 安心安全な食事提供の努力
  • 食の正しい知識の学習に役立つ教材化の努力
  • 関連する学校教育や家庭、地域との連携等…

特に留意したのは、生徒や先生方が期待して待つ「おいしい給食」を作ることでした。調理員さんにも「私たちが作るのは“食の教科書”」だという意識化を図ったことで、見る見る腕を上げ、皆が期待して楽しみに登校する学校給食に変わっていきました。

おいしい教材に生徒が変容、地域にも広がり

2年目からは「食育」に重点を置きました。おいしく教材として充実した学校給食により、食や健康の大切さに気づき、日々の生活習慣が変容していく生徒を見て、先生方も食育の重要性を理解し「学校教育の重点目標」として位置づけ、特別活動に取り入れる機会が増えるなど、全面的に協力してくれました。それは次第に家庭や地域へと広がり、3年目の最後には、地域が学校を、子ども達を、そして学校給食を温かく見守り支えてくださっていることが肌で実感できるようになっていました。「“食”は“ひと”づくり」ですね。このことが確信できた最後の3年間は私の人生の宝物です。<現在佐久長聖中学・高等学校の食育アドバイザー>

6月は長崎県大村市立郡地区学校給食共同調理場・福田万喜子先生の予定です。

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