第46回「郷土の味を伝えるということ」

三重県伊勢市立御薗小学校 栄養教諭・上田典子

伊勢神宮のお膝元、伊勢市には「伊勢うどん」という風変わりなうどんがあるのをご存知でしょうか。それは麺というよりまるで軟らかく煮た太い団子のようで、真っ黒なたれと天盛の青ねぎだけで食べるうどんです。私の子どもの頃には「並うどん」と呼ばれており、このうどんが普通なのだと思っていましたが、よそからみえた方が口にされるとそのコシのなさに驚き、あまり評判も知名度も良くなかったように思います。もともとはこのうどん、土地の農民に食べられていたもの。やがて形を変えて商品化され、江戸時代に大流行したおかげ参りの参拝客のために普及したということを聞いたことがあります。

当時は理に合った食品だった

やわらかくゆでられたうどんは胃に優しく、旅で疲れた参拝客のエネルギー補給に最適だったのでしょう。また、鰹節・昆布・煮干をふんだんに使ったたれの味は、当時の人にはとてもぜいたくなものに感じられたのでしょう。客が待たされずにすぐに食べられるということも魅力のひとつだったのかもしれません。
式年遷宮の年ということもあり、平成25年の伊勢神宮参拝客は1400万人を超えたそうですが、おかげさまで「伊勢うどん」の名も全国の方々に再び知られるようになってきたようです。

「伊勢うどん」を給食に取り入れて

伊勢市では毎年1月の給食週間中に郷土の料理を使用した献立を実施しています。その際「伊勢うどん」は必ず取り入れ、子ども達に郷土の味として紹介し、伝えていくことにしています。
江戸時代には主食を大量に食べることによってエネルギーをとっていましたから、うどんだけでも食事として成り立っていたのだろうと思います。おいしいたれだけで食べることが信条の「伊勢うどん」も、あくまで主食です。味がそこなわれることのないように気を使いつつも、牛乳・主菜・副菜の組み合わせで献立を考えなければなりません。ところが栄養計算してみると、ビタミンB1がなかなか確保できず、違和感のない献立にするためには大変な苦労がいるのです。「並うどん」をおかずなしでおいしく食し、満足していた子ども時代を思い出し、複雑な気持ちになります。

伝統も大事、健康のための知識も大事

江戸時代には、白米を中心に食べることが原因でビタミンB1不足を招き、脚気などで体調をくずす「江戸わずらい」というものがあったそうです。現代でも極度に精製された食品を多食したり、インスタントの主食のみで食事をすませたりする習慣を持つ人がいますが、ひょっとすると「江戸わずらい」のような状態になってしまうかもしれません。
私達栄養教諭は、給食の献立を教材に食の大切さを理解させる仕事をしています。食についての伝統や郷土の文化を伝える時には、健康で暮らしていくために必要な食の知識についても、同時にバランスよく伝えることが大切だと思います。

栄養教諭の仕事はどんどん広く深く

おいしく楽しく食べるだけでなく、主食・主菜・副菜の意味や役目がわかり、そのバランスを考えて食べることを両立できる子どもを育てなければなりません。そのために郷土の食文化の中で何を大切に残し、何を変化させていかなければならないのでしょうか。私達の仕事はこれからも、まだまだ広く深く進めていかなければならないと感じています。

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