栄養士コラム

第113回「『居ると助かる』から『居なければならない』栄養教諭に」

柴田直美

宮崎県宮崎市立江南小学校 栄養教諭

柴田直美

「先生は本校にとって待ちに待った栄養教諭です」。本校に赴任した4年前に、校長先生がおっしゃった言葉です。しかしその後、アレルギー対応のために強く学校が栄養教諭の配置を希望していたことを知り、「アレルギー対応において栄養教諭が居た方が助かるからこの学校に配置されたの?この学校は栄養教諭に食育の充実など求めていないのだろうか?」と、正直複雑な心境でした。しかし、せっかく赴任したのだから、「栄養教諭が居ることで食育が充実するということを証明できるように頑張ろう」と前向きに考えることにしました。 そこで年度はじめに、栄養教諭は給食管理だけでなく食育を中心になって行う職員であるということを全職員に知らせることから始めました。

生きた教材となる給食献立の実施

栄養教諭が配置される以前は、市から送られてきた統一献立を実施していたのですが、アレルギー対応を避けたいがためにアレルゲン食材を献立から外したり、児童があまり好まない味付けや行事食、郷土料理を実施しない等、生きた教材となるように栄養教諭が立てた献立を変更することが頻繁に行われていました。栄養教諭が配置されたことで、献立のねらいや意図をしっかり示し、多様な食品や献立を提供できるようになり、職員や児童からも、「先生が来てから今まで給食で出たことのない色々な料理や食品が出るようになりましたね」という声をいただくことが多くなりました。

効果的になる食に関する授業

学級担任が担当する学校の教育活動は実に多岐にわたります。食に関する授業のことだけに多くの時間をかけられない学級担任が食に関する授業を行う際に、栄養教諭が学校に居るかどうかで明らかにその授業の質に違いが出ます。学校の中で栄養教諭ほど食に関する授業について専門的に考え、効果的な資料・教材を準備することのできる職員は他には居ないからです。
学級の児童を一番理解し授業のプロである学級担任と、学校給食を生きた教材として活用できる食の専門家である栄養教諭が連携して行うTT授業は、授業のねらいを達成する上で最も効果的な手法であることを、私も学級担任も実感しています。最初は栄養教諭の方から声をかけることから始まった授業も、一度その良さを学級担任と共有してしまえば、その後は「食に関する授業は全て栄養教諭と一緒にやる」というスタイルができあがり、計画的に授業に関われるようになっています。

「卒業お祝いバイキング給食」で栄養バランスのよい食事についての学習の実践

毎年卒業式の数日前に、6年生を対象に「卒業お祝いバイキング給食」を行っています。栄養教諭が配置される以前にも実施したことがあったようですが、主食ばかりが多く副菜が少ない等、献立内容に問題があったり、大量に余ったり、バイキング給食の目的やマナー面の指導がなかったために、一部の児童がたくさん取りすぎて後の児童の分がなくなった等、かなり課題がありそれ以降中止されていたようです。「もしここに栄養教諭が居たら違っていたのに」と残念な気がしました。
そこで「ただ楽しい、おいしいバイキング給食」ではなく、6年生の家庭科で学習した「バランスのよい食事のとりかた(主食・主菜・副菜)」の実践の場として、教育的意義のあるバイキング給食を実施するようにしたいことを関係の先生方に提案し、計画、児童への事前指導などをしっかり行い、当日を迎えました。課題は全て解消され、調理員さんや先生方の6年生の卒業を祝う気持ちがこめられた、楽しい、おいしい中にもしっかりと学習の実践も兼ねた、すばらしいバイキング給食になりました。
今年の6年生も3月の「卒業お祝いバイキング給食」を心待ちにしてくれています。本校のバイキング給食は、栄養教諭が居なければできない「栄養教諭ならではのバイキング給食」だと自負しています。

互いに繋がり皆で研究して栄養教諭としての力をつけよう

「私が小学生の時にも、先生みたいな栄養教諭の先生が居てくれたらよかったのに」。つい先日、給食の運営実習で本校に来ていた学生が、実習最後に言った言葉です。全ての学校の児童生徒が等しく食育を受けるためには栄養教諭の全校配置が不可欠だと思いますが、まだ時間がかかるのかもしれません。それまでの間は、近隣の未配置校にも指導に出かけられるように、私たち栄養教諭一人ひとりが、今まで以上に栄養教諭としての力をつけていくことが大切です。
そのためには同じ栄養教諭同士が、経験豊富なベテランの栄養教諭、中堅、初任者、それぞれの得意分野を出し合い、互いに繋がり、皆で研究することが一番の早道だと思います。実際に私も、初任者の頃から今まで、本当に多くのことを先輩の栄養教諭・学校栄養職員の先生方に教え導いていただきました。今自分が毎日行っている栄養教諭の職務の全ては、栄養教諭制度実現に向けて子供達の食育の充実のために長年努力されてきた多くの先輩方の上にあります。これからは、そんな先輩方の思いも引き継ぎながら、学校において「居ると助かる栄養教諭」ではなく「居なければならない栄養教諭」を目指して、努力し続けていきたいと思います。