「栄養教諭」は食育の推進役そしてコーディネーター

平成17年4月に、学校の食育を中核となって推進する栄養教諭の配置がスタート。同年7月には食育基本法が施行されました。更に翌年3月には食育基本法具現化のために食育推進基本計画が策定されました。今こうして整った食育推進の環境のもと、学校や家庭、行政や地域などがそれぞれの視点で積極的な活動に取り組んでいます。この食育推進の中心である内閣府の調査によると、法律施行時の平成17年7月に、食育という言葉やその意味を知っていた人は52.6%でしたが、平成20年3月には74%で20%以上の増加です。そこで本コーナーでは、全国で食育運動が開始されて5年目を迎えた今、これまでの成果や今後の課題について様々な立場から語ってもらい、今後の食育のあり方について検証していきます。第1回目は、社団法人全国学校栄養士協議会(全学栄)の市場祥子会長にお話を伺いました。

市場祥子さんの顔写真市場祥子(いちば・さちこ)
長野県上田市出身。上田市立真田中学校等の勤務を経て、現在は佐久長聖中学・高等学校の食育アドバイザーとして同校の食育活動を支援している。平成17年8月より内閣府の食育推進会議委員となり、平成19年6月、社団法人全国学校栄養士協議会会長に就任。

Q.栄養教愉の配置と食育基本法の施行は、学校現場をどう変えたか

まず今年4月、栄養教諭の配置は全国で2600人を越えました。任用された栄養教諭は「同じ食育の授業をしても、これまでと先生方や児童生徒、保護者の皆さんの受け止め方が違う」と口を揃えます。法律で公に認められた職務と、個々の努力や周囲の思いで頑張って取り組んできた職務とでは残念ですが違いが出るのですね。関係者の食育への理解が一層深まり、協力体制も強まったことが実感でき、うれしく思っています。

Q.皆さんはどのように受けとめているか

学校における食育は、食の専門家である栄養教諭が、学校給食の献立を生きた教材として活用し、中核となって推進することが期待されています。そのために指導と給食管理を一体化して取り組む栄養教諭の職務は、体力的な負担も大きく大変ですが、成果には手ごたえがあり、精神的には充実感や達成感が感じられて、疲れを忘れると当協議会会員の喜びの声も寄せられています。

Q.学校現場で食育の浸透を後押ししたのは

それから栄養教諭制度だけでは、ここまで食育は浸透しなかったのではないでしょうか。私は食育基本法が後押ししてくれていると思っています。この法律が施行され、食育推進基本計画が策定されたことにより、これを踏まえて、各都道府県及び教育委員会では独自の食育推進計画が作成されました。その結果学校における食育の重要性への認識が高まり、21世紀の「生きる力を育てる」教育方針を推進する重要な指導の一つとして考えられ、家庭科や社会科、などの食育と関連できる教科や、特別活動、体験学習が重視されて新設された総合的学習の時間などの授業に取り入れられるようになりました。

Q.食育基本法が制定された意味は

読んでいただくとわかりますが、この法律が一番ねらっているのは、次代の人材育成です。国土が小さい日本では人材が最も大切な資源であるのに、その大事な人材が、食生活が乱れて心身共に健康に育っていない現状を重く捉え、国民運動として、国をあげて食育に取り組むことで、子どもと共に国民の健康改善にも役立てることが願われています。その基本的な推進の考え方としては、まず食育は、生きる上での基本であり、知育、徳育、体育の基礎となるものと位置づけられています。子どもの食育を進めるために基盤となるのは家庭の食育であり、後はすべて、家庭の食育を支える担い手で、その一番重要な担い手は学校における食育だと位置づけています。

Q.食育は学校だけが果たすものか

学校における食育は、栄養教諭が中核となって校長先生のリーダーシップの下、先生方とともに食に関する年間指導計画を作成し、学校教育計画と連動してしっかり明示し、学校給食の充実化を図り、食育の教材として活用して進めることが強く期待されています。この推進計画を見ると、栄養教諭の職務への期待が大きく、子どもの食育の成果を1日でも早くあげるために、食育基本法が支えてくれていることがよくわかります。更にこの法律は、必ず学校、家庭、地域が連携して国民運動として推進することが重要視されていて、そのことも、学校における食育の成果をあげるのに大きな力になっていると思います。

Q.現役の時代は食の問題にどう取り組んだのか

私は平成13年から定年までの3年間、長野県の中学校に勤務しました。栄養教諭制度ができるかもしれないという気運が感じられる時期でしたので、初年度から「栄養教諭になったら学校給食を教材化してどれくらいの食育ができるのか」…できることを実践してみようと考えて段階的に取り組んでみました。

Q.第一段階は

1年目は、学校給食が教材として活用できるように旬の食材、地場産物の使用、食文化の配慮、安心安全な食事提供の努力、食の正しい知識の学習に役立つ材化の努力、関連する学校教育や家庭、地域との連携等実践できると思われるあらゆる面から見直しをしました。特に留意したのは、生徒や先生方が期待して待つおいしい給食を作ることでした。調理員の皆さんにも、「私達が作るのは食の教科書」だという意識化を図りました。とても質の高い皆さんだったので、見る見る腕を上げ、本当に皆が期待して楽しみに登校してくる学校給食に変わっていきました。

Q.次のステップは

2年目からは食育に重点を置いて進めましたが、給食室ではしっかりとすばらしい教材作りをして食育を支えてくれました。学校の先生方も食育の重要性を理解して、学校教育の重点目標として位置づけ、全面的に協力していただきました。こうして一丸となって進めた食育が、次第に家庭へ地域へと広がり、3年間の最後には、地域が学校を、子ども達を、そして学校給食を温かく見守り支えてくださっていることが肌で実感できるようになっていました。

Q.成果の手ごたえは得られた

生徒の食の大切さに対する理解が深まり、自分の生活を見直し改善していくようになりました。その結果、学習への集中力も高まり、成績も向上していったのです。この成果を保護者の声で聞かれたことは、本当にうれしかったですね。もう一つ食は心も育むということが実感できた経験をしました。それは、不登校生の給食室登校をしたことです。3年生の不登校の生徒に、給食を食べに来ることを通して何か変えてあげることができないかと考えました。給食は食べに来たいという生徒達の思いを受け、調理員の協力も得て開始しました。始めは無表情で言葉もなく下ばかり向いていた生徒が次第に表情や言葉を取り戻し、笑顔が見られるようになり、やがて自然に同級生とも触れ合えるように変わっていき、最後は級友と一緒に皆に祝福されて卒業することができました。この経験を通して食は体の健康だけでなく心も育むことができることを実感しました。食は人づくりです。命を育み何物にも代えがたい食の重要性を、改めて認識できた経験でした。

Q.確信したことは

この学校での様々な経験や実践を通して、当時の教育長がいつも、子どもの教育で大事なことは第一に「内容の充実した食事」と「自然に学習意欲が湧く美しい教育環境」と、この子たちをしっかり育てたいと「熱意を持って取り組む先生方の指導力」だと仰っていたことがうなずけました。こんなにも食が乱れ、子どもたちの心身の健康が憂慮される今だからこそ一層食育を推進することの重要性を確信し、次代にこの国を託す子どもたちのためにこれからも精一杯じ努力していきたいと思っています。

Q.全国学校栄養士協議会の今後について

「経験に優る知識はない」と常々思っていますが、経験年数の長い学校栄養職員よりも若い世代を栄養教諭に採用する傾向が見られるなど、地域によっては資質の格差も心配になります。当協議会の一番の課題は、資質の高い栄養教諭の全校配置です。義務教育に位置づいていて、栄養教諭が中核となって全校の先生方と共に取り組む食育が受けられない子ども達がいることはおかしいと思うのです。この現状を打破するためには、一人ひとりの資質を向上して、積極的に職務に取り組み、栄養教諭の必要性を保護者や地域、各都道府県の関係者の皆さんの理解を深めて配置へのご尽力を働きかけていくことだと考えています。

Q.具体的にはどう取り組むのか

社団法人学校栄養士協議会は、栄養教諭の全校配置を目指し、本来資質の向上を重点目標として、文部科学省のご指導をいただきながら活動している研修組織です。従って様々な研修の機会や調査研究、その研究成果の刊行等を主に活動しています。今後も更に全会員の栄養教諭としての資質を高め、周囲にその実践を知らせていく努力が必要です。その積極的な働きかけが関係者の意識改革を図り、栄養教諭の更なる配置促進に繋がると思っています。具体的方策としては、自主研修会が実施されています。特に今年度は50年ぶりに大改正された学校給食法が施行され、学校給食を教材化して栄養教諭が取り組む食育が法律に明示されたこと、また、平成24年度より完全移行される食育が盛り込まれた新学習指導要領による教育が始まる年度であることも考慮して、栄養教諭の更なる資質の向上を目指して自主研修会を充実発展させていくことを考えています。

私達にとって節目のような大事な今年、この協議会や栄養教諭、更には任用変えを願いながら必死に頑張っている学校栄養職員の熱意ある食育への取組が、心身ともに健全な子どもを次代に送る大きな力となることを信じ、会員一同が一丸となって頑張っていきたいと心を引き締めています。

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