学校や家庭では「こころ」に響く食育を

フードプロデューサーという耳慣れない肩書きの小倉朋子さん。米国の医療・ホスピタリティなどの団体であるAHMAからフードオペレーションなどを資格取得されていますが、その考え方はトータルに健康を考えるというもの。調理や栄養やマナー、日常生活、食事の空間、農業や流通から環境問題などまで、食を頂点としてその裾野に広がる様々なものはどれも関係する。「いのち」の教育がその核になるというトータルな視点から、食育への提言を聞きました。

小倉朋子さんの顔写真小倉朋子(おぐら・ともこ)
大学卒業後、企業に勤務。カナダ留学を経て現在、多くの著書、講演、セミナーなどで子どもと食育に関して、日本の食文化の特長である「心と食」という広い視野から指導や提言を行っている。亜細亜大学講師、日本箸文化協会代表、東京食育推進ネットワーク幹事など。www.totalfood.jp

Q.「食育」に求められるものは何か

「何を食べるか」という選択する力と同時に、「どう食べるか」という“こころ”につながる部分が大切だと考えています。
人が人として生きていく上での基本は「衣食住」ですが、この中で唯一“食”だけが、これがなければ生きていけないもの。食は、「いのち」に直結しているのです。「どのように生きていくのか」という視点では「心の教育」だと思っています。

Q.なぜ「こころ」につながる食育なのか

例えば子どもに農業体験させると、それまで嫌いだったトマトを食べるようになるとか、そういうことはあるんです。それは食への興味関心を育てる起爆剤にはなるけど、でも家に帰ってもし親がトマト嫌いで食卓に出さなかったとしたら、体験しただけで止まってしまうのです。
食への体験や知識は大切です。でも「おいしいよ」「新商品だよっ」と魅力的なスナック菓子やお弁当が並んでいる、そういった日常の中で、「いや、私はおいしい野菜を選ぶ」「外食、中食が続いたから、時には自分で料理しましょう」という行動をするようになるまで距離があります。
経験や知識が行動を変える、そこまでたどり着けるためには、「こころ」に響く食育が大切なのです。生きていくために、自分や家族のいのちを大切にするためにこれが必要なんだと、そこまでのリテラシーが高められることです。

Q.学校、家庭の中では、どのように指導するか

「どう食べるか」の入口はマナーです。ナイフとフォークやお箸の正しい使い方といった堅苦しいイメージのマナーばかりではなく、毎日3食きちんと食べられることに感謝して「いただきます」から始め、食材の命を頂くことへの礼儀、作ってくれた人への感謝や学校なら友達、家庭なら家族など一緒に食べる人たちへの思いやりなど、全てに対するマナーの指導です。
もの心つくころから、家庭や幼稚園・保育園で、食事のたびに保護者や先生がきちんと伝えていくことで刷り込んでいきましょう。お金も道具もいらない、今からすぐにできる指導ですね。

Q.マナーの視点は「好き嫌い」の指導にもつながるか

今、大人が子どもにサービス、気を遣いすぎで、食事を通して大人から学ぶ機会を失っていますね。
特に家庭では子どもが好きなもの、食べやすいものだけを提供してしまうから。必要なものも与える、与えられたものは感謝して食べるという、当たり前のルールがなさすぎます。
そこでなぜ今、これを食べることが必要なのかを、きちんと説明して理解させる機会がなくなってしまうのです。だから特に保護者のみなさんには食育を学んでほしいと思うのです。

Q.「好き嫌い」について講演の依頼が多いとか

嫌いなものは少ない方がいいのです。食べものの好き嫌いは、心の成長の面でも、決して“食べもの”だけに留まりません。嫌いなものでも好きになった方が、絶対にいろんな意味で人生の可能性が広がります。もしかして食べられるようになったら、そこには達成感があり、それが後の生き方にいい影響もあるはずです。
逆に嫌いを嫌いなまま受け入れていく志向の慣習性は、仕事もやってみたけどつまらなかったらやめる、嫌いな人だから嫌いなままで付き合わなければいい、という考えにつながりやすいでしょう。でもいつかは、嫌いだったけれど食べてみよう、という気持ちになるかもしれない。嫌いが好きになっていく体験って、子どものうちに味わっておかないと、すぐに「やーめた」となる関係性があると思います。

Q.「好き嫌い」は治せるのか

食わず嫌いもありますが、直線的ではない理由で嫌いになることもあります。例えばたまたまそれを食べている時、いやなことがあった、叱られていたとか。人間の記憶はその間接理由を忘れて、嫌いになった食べ物だけを覚えている可能性もあります。
嫌いな理由には科学的には7項目あると言われます。最も大きいのがアレルギーなどの身体的理由で、先天的ですから治せないことが多いのですが、他はほとんど後天的要因で、治せるんです。
私も小さい頃はお寿司は好きなのに、刺身には格別な美味しさをあまり感じなかったのです。実はこの仕事を通じて、食の嗜好は気持ちで変わるのだろうかと試してみたくなり、一時期は徹底してお刺身を食べたんです。そうしたら、刺身による至福の感覚がわかるようになりました。そのほかにも自分の体を通して、今までいっぱい人体実験をやってきました(笑)。
今は、その時の体調や状態によって自分の体とともに、心が健康になるような食事環境を選び、美味しさを感じるようになっています。知識と気持ちや生活環境によって、大人になっても、味覚は変わるものなのです。

Q.お箸と「好き嫌い」の関係は

実は、お箸が上手に持てないことと、好き嫌いには関係が深いです。 例えば頭も骨もまるごと一尾の魚を出す家庭は、今は少ないです。調理も面倒だし、生ゴミは出るし、食べるのも面倒。だから日本の魚の消費量は、年々下降しています。食卓に上がらないことで、子どもたちが好きになる機会も奪っていくことが残念です。お米と魚で育ってきた国なのに。
お箸が使えないと魚をきれいに食べることが100%できません。だから面倒くさい、魚なんかいらない、と悪循環です。他にも食べる物はたくさんありますから。
しかし、お箸が上手に使えるようになると、嫌いだった魚や煮豆などの和食にも挑戦してみようかなとなる子どももいるのです。やはり達成感があるから。ここがポイントでしょう。
ひじきやお豆の煮物、伝統的な日本の料理って、繊細なものが多いんです。お箸が上手に使えないときれいに食べきれないものが多いので、箸づかいの克服から日本型食生活の復活も図れるのです。

Q.日々の食育をまとめると

何をどのように食べるのか。食べ物の命を頂くことだから、それを手をかけて作ってくれる人がいて食べられることであること。お金があれば何でも食べられる今だからこそ、食育は大事。だからこそ、自分の人生と向き合うことと思ってほしいですね。

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