「食育」は人づくり、生き方を教える

今や諸国要人から「Mr.shoku-iku」と呼ばれるほど、"食育の顔"とも言える服部幸應さん。制定に自身も深く関わった「食育基本法」について「本当は食卓基本法なのです、それを伝えていきたい。"食育"は躾、子育てなのです」と強調します。平成23年実施の小学校学習指導要領では初めて「食育の推進」が明記されます(中学校は24年度)。これまでの成果と今後の課題を、原点に立ち戻りながら語っていただきました。

服部幸應さんの顔写真服部幸應(はっとり・ゆきお)
医学博士/健康大使。(学)服部学園 服部栄養専門学校 理事長・校長。立教大学卒業後、昭和大学医学部博士課程修了。食育をテーマにした多くの著書、講演活動などで食育を牽引し続ける。内閣府の「食育推進会議」委員で、食育推進基本計画(平成18年から22年の5か年計画)の作成にも携わる。服部学園からは、毎年多くの学生が食育の継承者として食の現場に巣立っている。

Q.なぜ「食育」を提唱したのか

今から22年前、本校の学生に1週間の食事日記をつけるように課題を出したところ、バランスの悪い食事、朝食欠食などの結果に愕然としました。そして2年後、卒業前に同じように1週間の食事日記をつけてもらいました。5、6割は改善するかと思っていたら、約6%しか改善されませんでした。食のプロになる学生がこれではいけない、そう思い教員たちに学生の過去2年の成績を見せてもらいましたが、成績は大変優秀でした。理論はできているものの、一度ついた生活習慣はなかなか直らない、18歳から20歳の年代では人は変わらないのだとその時感じました。幼い頃からの「食卓」における躾教育がある子どもとない子どもとには、大きな差があることがわかったのです。それが私の研究の始まりでした。

Q.「食育基本法」施行のいきさつは

知育・徳育・体育の3つの柱だけでは日本の子どもたちはだめになってしまう、その基本となる「食育」を教育のなかに入れる必要があると政府にお願いをしたのが10年前。その後BSEなど食にまつわる安全・安心問題が話題となり、平成15年には「食育調査会」が急遽立ち上げられ、アドバイザーとして私が入ることになりました。その結果、平成17年に「食育基本法」が成立したのです。これを機に食の安全安心については多くの問題が明るみとなり、国民の食への意識が高まっています。「食育推進会議」の委員も務めておりますが、平成18年からの5か年計画として「食育推進計画」が進められ、9つの目標は現在、7割から8割は達成できているという状況です。

  1. 食育に関心を持っている国民の割合 (平成18年70% → 22年90%)
  2. 朝食を欠食する国民の割合 (子ども4% → 0%、20代男性30% → 15%)
  3. 学校給食における地場産物 (21% → 30%)
  4. 「食事バランスガイド」等を参考に食生活を送っている国民の割合 (60%)
  5. 内臓脂肪症候群(メタボリックシンドローム)を認知している国民の割合 (80%)
  6. 食育の推進に関わるボランティアの数 (20%増)
  7. 教育ファームの取り組みがなされている市町村の割合 (42% → 60%)
  8. 食品の安全に関する基礎的な知識を持っている国民の割合 (60%)
  9. 推進計画を作成・実施している自治体の割合 (都道府県100%、市町村50%)
    (カッコ内の数値は5年後の目標値)

Q.「食育」の現状と課題とは

家庭・学校・地域社会を縦断的、横断的に、そして乳幼児からお年寄りまで幅広く健康や生き方について考えることができるように「食育基本法」には3つの柱があります。1つ目は「どのような食べ物が安全か危険かを理解する選食能力を養うこと」、2つ目は「衣食住の伝承」、3つ目は「食環境の整備」です。内閣府の調査で「食育」について「言葉を知っている」人は72.2%(平成21年5月)でしたが、多くは「食育は、親子料理教室でしょう、農業体験でしょう」という認識なのも現状です。食育の3つの柱について、家庭では選食能力を養うことと衣食住の伝承について、学校では選食能力を養うことと食環境の整備について集中的に教えていただきたい。地域では食環境の整備をベースに活動していただきたいと思います。

Q.学校での「食育」に何が必要か

栄養教諭の活躍に大いに期待しています。でも現在は充足していません。1万8000人くらいの栄養教諭が望ましいと思うのですが、まだまだ難しいと感じています。私はこの3年間、中央教育審議会の委員でしたが、一貫して食育を入れる必要性を訴え続けてきました。そうして新学習指導要領に食育の授業の在り方を盛り込んでもらうことができました。それを基に栄養教諭、栄養職員の方々が活躍することとなりますが、その人材を育てることも大切です。栄養学がわかるだけでは務まりません。そこでNPO「日本食育インストラクター協会」をつくり、優秀な指導者を世に送るよう栄養士・調理師の養成施設協会にもインストラクターを導入しました。
教育とは、100匹の魚を与えるのではなく、釣り針と釣り糸の使い方を教えること。「食育」とは一人立ちできる生き方を教える、一般常識を持った人づくりの教育だと思います。

Q.「食育」と躾について

食育で一番重要なのは、幼保育園、小・中学校の保護者の皆さんです。食育の柱の1つ「衣食住の伝承」については、家庭が鍵を握っています。昨今、凶悪な犯罪が増え、この20年間に44倍となり、警察庁の統計によると平成19年には9051件の凶悪犯罪が起きています。これは、子どもの頃に食卓で一般常識を親から教わらなかったことが原因の一つでしょう。0歳から3歳までに家族間のスキンシップ、3歳から8歳の間の食卓での躾がここで問題となります。
保育園は0歳から預けることができますが、保育士さんは父親、母親ではありません。保育士の皆さんはお姑さん役となり、父親、母親はどのような存在なのかを教えてあげて欲しいと思います。そして躾で最も重要な時期の3歳から8歳までの6年間は、家族で食卓を囲み箸の上げ下げや食事のマナーを教える必要があります。
1日3食1年間で1095回の食事となります。50年前は誰かと一緒に食事した回数が約800回でした。しかし今では約300回に減少し、6年間で3000回足りないことになります。脳は10歳から12歳位までに完成しますが、8歳から10歳までは脳神経が発達する時で好奇心が出てきて「なぜ、どうして」という頃です。その前の6歳から8歳の間に一般常識を身につけさせることが大切です。私は常々「食育基本法」は「食卓基本法」だと思い、それを伝えていきたいと思っています。

Q.「食育」を提唱し続け、変化を感じるか

学園では法律ができる前から、食育を本校の教育にプラスアルファで入れたいと思い指導してきました。将来、小中学校に食育が入った時にすぐに指導ができるように学生を育てるのが理想でした。そうしたところ、学生たち自身も「ただの栄養士、調理師じゃない」という心意気が生まれ、食育の観点から物事をみる目が養われてきたのを感じています。
諸外国の状況も変化しています。アメリカなど先に食教育に取り組んでいる国はたくさんありましたが、法律化されたのは日本だけ。「日本でこのような法律をよく作ることができましたね」と言われます。そのたびに私は日本では文部科学省、厚生労働省、農林水産省の3省が中心となり、内閣府が取りまとめていますと話すと、皆さん感心します。そして今年、韓国でも食育に関する法律が施行されました。他にも、ロシア、中国、台湾、オーストラリア、フランス、イタリア、スペイン、トルコ、エジプトなど多くの国々が興味を持って問合せがあり、世界に「Shoku-iku」が広がっています。

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