食育は学際的、各教科と連携して取組みを

食堂、コンビニ弁当、あらゆる場で目にするカロリー表示。80年代、そのはしりとなった「カロリーガイド本」を執筆した荒牧麻子さん。食育の課題の一つ“肥満とやせ”は、栄養指導と共に生活様式や生き方まで含めた、相手の心に届くコミュニケーションが大切だと語ります。現在は、子どもたちへの「味覚教育」を重視し、京都大学「こころの未来研究センター」の連携研究員として研究に没頭。フランスの味覚研究家ジャック・ピュイゼ氏の「味覚教育」を、日本の食育に盛り込めるように、その基礎を研究中です。

荒牧麻子さんの顔写真荒牧麻子(あらまき・あさこ)
女子栄養大学卒:管理栄養士。「アール・ド・ヴィーヴルの会」代表。73年からホテルオークラヘルスクラブの栄養相談担当。88年、栄養コンサルティングサービスのダイエットコミュニケーションズを設立。科学的で食文化を考慮した栄養カウンセリングを基本に、執筆、講演などを通じて情報発信している。

Q.子どもの“肥満とやせ”は、食事への誤解から生じた食育の課題だ

病気によるものは別として、肥満や痩身は栄養指導で改善できます。ダイエットも食事療法の一つなのですが、ちょっと誤った受け止め方があるのは栄養士の私達にも責任の一端があるように思えます。
例えば肥満の子どもに「間食をしてはいけない」と画一的な指導をしがちです。それは大人の枠に子どもを無理やり押し込んでいるのかも知れないのです。子ども達はお菓子が食べたいだけの理由ではなく、友達とのコミュニケーションを図りたいのかも知れないし、付いているキャラクターが欲しいのかも知れません。栄養学的な理由よりも、8割か9割は心の問題だと私は感じています。子ども達が心の中で訴えているものを拾って受け止めてあげながら、必要な指導をしていくことが求められます。

Q.栄養知識と共にカウンセリングの技術がこれからは必要だと

女子栄養大の学生だった時、農村の食生活改善のため、信州の農村へ調査に行きました。そこで普段の食事を取材すると、山盛りのご飯、しょっぱいお漬物としょっぱいお味噌汁です。塩分の摂取が1日10グラムどころか20~30グラムにもなる塩分過多です。だからすぐに食事を改めろと言うことは、土足で相手の家に踏み込むようなもの。生活スタイルを変えなければならず、それには本人がその気にならなければ変わりようがないのです。
このような経験から、栄養指導は一人ひとりが違う生活の背景を踏まえて「自分に必要な食とは何か」を分かってもらうことです。ただ画一的な指導の押付けは指導にならないと反省しています。

Q.現在の研究テーマ「味覚教育」とは、どのようなものですか

日本人がひと口に「味覚」と言っているものは、味の感じ方のことですが、本来はその人それぞれの「食歴」でありそれこそが「味覚」だと私達は研究しています。例えばAさん、Bさん、Cさんの3人が同じ食事をしているとします。しかし、子ども時代の多様なものの見方、家庭での食環境によってそれぞれ感じ方が違います。しょっぱい・すっぱい・あまい・にがいを、五感で感じ取り、幼少期からその五感を使った「食歴」がそれぞれの「味わい」となっていくのです。
生育歴が違うのだから、味覚には人それぞれに違うのが当然…その感じ方の違いを知ること、食の多様性をお互いに認めあうことが味覚教育のスタートなのです。

Q.なぜ「味覚教育」が必要か

人間はお母さんのおなかの中で40週過ごします。動物はもっと長い間おなかの中にいるものもいますが、その生態は21世紀の現在でも変わりません。育つ上で人間も動物も「食べる」行為をしますが、その「採食行動」は大変興味深いものです。食べることは、色や形、温度、香りなどの五感を総動員するわけで、「感性教育」につながるものです。そもそも人間は草食動物でも肉食動物でもなく雑食性です。食べることは「生態学」の一分野なので、食育を教える側も、これからはその意味を知る必要があるわけで、広い意味での「味覚教育」が必要と考えます。

Q.これまでの実践・研究で感じていることは

学生時代の実習で、患者さんへの栄養指導のアシスタントを行ったことがあります。体重や、顔の色艶など、患者さんが変化していく様子を目の当たりにしましたが、人の「食歴」には具体的な献立の中身の食事バランスだけではなく、テーブルと椅子で食べているのか、ちゃぶ台に正座して食べているのかなど、食べるスタイルまでも関係してきます。
食育基本法が施行されてから、世の中ではたくさんの食育イベントが行われていますが、子ども達が目を輝かして群れをなして楽しんでいるイベントがどれほどあるでしょうか。大人の枠を子ども達にはめ込んだ食育をしてはいませんか。相手の心を動かす力をどれだけ提供できるか、そのスタートラインとしての「味覚教育」を進めていきたいと考えております。

Q.これからの食育を学校現場で行う際には

現在は栄養士が食育を行っていますが、栄養士はまず子どもたちの問題や実態を踏まえた提案を行う必要があります。学際的なものです。ですから栄養士と連携して、学級担任、理科や社会、時にはスクールカウンセラーの先生なども、食育には大いに関わって欲しいと思います。
フランスでは担任が食育を行っています。生物や科学の延長が食育でもあるので、複数でマネジメントする必要があるでしょう。

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