食育は継続、それがトップアスリートの原点

プロサッカーチーム、横浜F・マリノスの栄養アドバイザーをはじめ、多くのプロスポーツ選手と接し、その食生活とプロ意識を目の当たりにしている橋本玲子さん。毎年1度はプロのスポーツ選手を目指す小中学生の子どもたちと、その保護者へ栄養講習会を行っている。昨年から横浜マリノス株式会社が「サッカーと食を通じて何か地域にお手伝いができないか」という気持ちで取り組み始めた「食育プロジェクト」においても活躍しています。トップアスリートの食生活の秘密、強くて怪我をしない健康な体を作るためには、どのような心構えが必要なのでしょう。それを子どもたちに伝えていくためには何が必要なのでしょうか。

橋本玲子さんの顔写真橋本玲子(はしもと・れいこ)
アメリカオレゴン州のスイス&クラーク大学外国語学部を中退後、日本でイギリスの化学品会社に就職。その後、二葉栄養専門学校で栄養学を学ぶ。2000年に栄養コンサルティング会社(有)橋本玲子ダイエットコンサルテーションズを設立。プロサッカーチームや社会人ラグビーチームの栄養アドバイザー等も務める。

Q.プロのサッカーチームが取り組む食育活動とは?

この食育プロジェクトのなかで、横浜市教育委員会と「食教育推進における提携に関する協定書」が締結されました。私は子どもたちと直接接する機会は少ないのですが、育成コーチが小中学校で行う「サッカー食育キャラバン」に参加することもあります。育成コーチがサッカーの指導を行った後にお昼を共にして、食育のアドバイスを行うイベントです。私も一緒にお昼をいただきますが、学校のお昼休みがこんなにも短いのかとキャラバンを通して、驚いたこともありました。私も一緒にお昼を食べるのですが、なかなか会話を楽しむ時間がないですね。

Q.トップアスリートになるには特別な食事が必要ですか?

トップの選手でも二重丸がつくのは、30人中5人くらいです。なかには、プロになってから初めて食事について真剣に考えるようになった選手もいます。その割合は年々増えていると思いますが、そこには子どもの頃の食環境が影響していると感じています。プロの選手は年間を通して、皆がだいたい同じ練習をしていますが、同じようなことをしていてもケガをしやすい、風邪をひきやすい、それが治りにくいという状態があり、食生活を見ていくと、朝ごはんはおにぎりだけ、食事で野菜をとっていなかったということもあります。
食事の前に手を洗いうがいをして、出されたものは苦手なものでも一切残さない、そんな選手がいますが、やはりその選手は年間を通じて試合に出て結果を残しています。選手を見れば食事がしっかりしているか、睡眠がよくとれているかがわかる、とコーチ陣もおっしゃいます。スポーツの世界の食育というのは、プロになったらむしろ栄養士のサポートは必要のないもので、強くなるためにスポーツ選手としてどのように食べるかがある程度身についていれば、何の心配もなく世界中どこに行っても大丈夫だと思います。
ごはん・パン・パスタがあって、おかずに肉か魚、そして野菜を食べる、その基本がわかっていれば良いのです。海外で活躍できる選手というのは、そういうことがきちんと身についている選手です。

Q.子どもの頃の食生活がその後影響するということですね

育成選手の中で朝ごはんを食べないという子はいませんが、おにぎりだけ、パンだけの子もいます。今の世の中が抱えている食の問題は、プロを目指す子どもたちも同じように抱えています。しかし、そこには大人の影響があり、親が食に興味がないと子どももそうなってしまうことがあります。 例えば食べることに興味が薄いために食が細く、その結果体が大きくならないということがあります。好き嫌いは昔から子どもにはあるものですが、今は嫌いなら食べなくてもいいと育っている子どもたちが多いです。魚が嫌いな子が合宿中に魚が食事に出ると、ごはんだけをふりかけと一緒に食べるということもあるようです。どのように対応したらよいのか、コーチも悩んでいますね。本当に強くなりたい、サッカーが上手になりたいという子どもたちが集まっていますし、食についてガミガミ言うのはコーチも私も良いとは思っていません。
ですが、丈夫な筋肉や骨をつくるためには、食べることもトレーニングです。時間がかかってもいいから、少しでも食べてもらおう、ひと口でも食べてもらおうという方針で食事をサポートしています。

Q.「食育」が認知されてきていますが、スポーツの世界で保護者の変化は

保護者講習会で「食育をご存知ですか」と聞くと、だいたい「はい」と答えがあがりますが、実際何をしていいのかわかっていない方が多いように思います。言葉だけが一人歩きしていないか今一度考えて欲しいと思います。教育現場、家庭、地域の団体が協力しながら食をトータルでサポートしていく必要がありますが、今それぞれの役割が明確になっていないように思います。
箸の持ち方や食べる姿勢が悪いとコーチに相談されることがありますが、本来であればそこは家庭でやるべき部分で、私たちが担う食育は、強くなるためにはどうするかということを伝えていく部分だと思います。食はいろんな分野から学べるチャンスがあります。忙しい世の中ですが、それを言い訳に食の重要性に危機感をもっていない保護者が多いとも感じています。ただそれを強く言えないのも現状で、学校の栄養士さんもみなさんそこが難しいと思っているのではないでしょうか。
「食育基本法」は、食を見直そうというきっかけ作りになったということで評価ができますが、家庭で何をして欲しいか、学校は何ができるか、地域は何をできるかというメッセージをいかに整理していくかが今後の課題だと思います。

Q.健康な体、強い体をつくるために必要なことは

トップアスリートを見ていて思うことは、バランスのとれた食事を当たり前のように365日続けている人が強いんだということです。「継続」することは非常に大切なことです。
学校栄養士のみなさんは、学校給食というすばらしい教材で「継続」した食育を実践されているとは思いますが、それを続けることが強くなる、健康になることだと子どもたちに自信をもって伝えてください。早寝、早起き、1日3回食べる、野菜を残さず食べる、もちろん全部食べてこそ意味があります。
ひと口でも食べる努力を「継続」するように子どもたちに伝えて下さい。これこそが、私が接してきたトップアスリートの共通点です。そしてぜひお願いしたいことは、一緒に学校給食を食べる担任の先生(大人)がそのフォローをして欲しいということです。

ページの上へ