楽しく学ぶ食育のススメ

「食(しょく)」の字は「人を良く」する「人に良い」と書く、人に「ショック(食)」を与えてはいけませんなど、食育の大切さを提唱し続けて35年余りの砂田登志子さん。執筆や講演活動などで精力的に活躍しています。ユニークな発想による文字遊び、言葉遊びをはじめ語り口はユーモアいっぱい。食とはおいしくて楽しいもの、食育とは楽しい食事の中から子ども達の食への興味や関心を育てるもの、というのが持論です。その一方で、欧米など各国の食育に比べ日本はまだ「時差がある」とも言います。改めて食育の意味、食育の大切さをうかがいました。

砂田登志子さんの顔写真砂田登志子(すなだ・としこ)
ニューヨーク・タイムズ東京支局記者などを経て独立。欧米諸国の食育とウェルネス事情の取材、新聞・雑誌への寄稿、テレビ・ラジオ出演、講演多数。内閣府「食育推進会議」専門委員の他、厚生労働省、農林水産省、文部科学省の食や健康教育に関する委員を多数つとめる。主な著書は『今こそ食育を!』(法研)、『楽しく食育』(潮出版社)、『みんなで食育』(全国農業会議所)、『漢字で食育』(求龍堂)など。

Q:食育は楽しいものだと言い切っていますね

調理はそれ自体が「ヒーリング = Healing(癒し)」なのです。ヒーリングの名詞形が「Health = 健康」ですから、せっかく作られたものなら楽しく、おいしく食べなければ健康になりません。「楽」という漢字には「ハ」が左右下に3つも使われています。「楽」しいは「ハハハ」と笑いながら感じるものなのです。
そして「学歴」より「食暦」が大切なのです。「暦」は日めくりのように毎日の積み重ねという意味ですが、1日3回ずつの食事に何を選んだかが、将来につながります。どのように立派な学歴で立派な仕事をしている人でも、健康が損なわれては全て崩れてしまう。だから食育は生命と生活・人生の分母なのです。

Q:楽しい食育のためポスターなど教材も工夫していますね

子ども達に少しでも食育の楽しさを感じてもらいたいと、毎日、考えています。楽しければ食への興味を持たせられます。「命」の字は神社などの神聖な場所で、人がうずくまり祈りを奉げている姿を現すもので「祈りと感謝」に通じます。新鮮の「鮮」という字は魚と羊、つまり豊かな海の幸と山の幸から出来ています――このように教えると、子どもたちは興味を持ってくれます。
文字遊びは、私がニューヨーク・タイムズの記者時代に、外国人の上司に頼まれて日本語を教えている中で気付いたのです。成り立ちを考えていくと、「漢字は古代人の心のアニメ、今も残る知恵のタイムカプセル」だと。
いかにして小さい時から良い体感を刷りこむかです。楽しく分かりやすく、経験で刷りこむ。体感できて納得できる知恵の刷りこみが大切で、まだ今のところ模索中ですが食育運動にしていきたいですね。

Q:食育とのかかわりはいつ頃どのような切っ掛けですか

大学を卒業してニューヨーク・タイムズの記者の時代です。欧米の新聞等を読むと、当時すでに食のページが確立され専門の記者が何人も居るのに、日本では家庭欄の料理コーナー程度。日本には食の専門家を育てる社会構造が、メディアに限らず大学にも行政にもありませんでした。
アメリカには100年以上の歴史を持つFDA(食品医薬品局)があり、食は医薬の上位にあるし、フランス、イタリアなどヨーロッパでも食文化へのプライドと人々の尊敬は高いものです。中国でも皇帝の「食医」は内科、外科の医者より偉かった。日本は「男子厨房に入るべからず」で、食文化への尊敬の念が薄く欧米は20、30年先を行っている、日本とはかなり時差があると感じ、何とかしたいと思いました。

Q:食育は人が生きるうえの基本だと言えますね

食に関する産業はGDPの10%、雇用の10数%を占めるほどの基幹産業です。にもかかわらず食育への社会的な取り組みは遅れています。同じ生命に関する課題なのに、学校での食品安全と交通安全の指導にかける費用は大きく違います。
海外のメディアから、日本の学校給食に関する特集をするので写真がほしいと依頼を受け、給食風景を撮影して送ったところ「日本では黒板のある教室で食事をするのか」と驚かれました。

Q:食や健康への優先順位が世界と比べて日本は低い

ある有名進学校の校長に聞くと、同じ時間や予算をかけるなら、食の指導より一つでも多くの英単語を教えたいと。日本では良く食べて健康であることより、勉強ができることがほめられる。すでに1970年代のデンマークでは幼児向けに、簡単な料理が自分で作れるポスターが家庭に貼られていました。
BSE問題から食の安全、食育の必要性が高まってきました。食育基本法が成立し、これから日本も急速にキャッチアップしていくと思います。

Q:学校の食育にはどのような提案がありますか

食育は手段です。食育を通じての、幸せづくり健康づくりにつなげたい。それには必要な食材の選び方、組み合わせ方、食べ方(時間)などの学習を伝え、賢い消費者を育てることです。これが将来の医療費、介護費用の削減につながります。医療には二つの面があり、対処療法的な治療のクリニックに対して、食育は予防のクリニックにつながります。
食育の目的は三つの「きょう」育です。強=心と体を健やかに強く、共=一緒に楽しく、郷=ふるさとの文化を理解する。そしてもっと食事に時間をかけましょう。憩う・休憩の「憩」という字を分解すると、「自らの舌を心ゆくまでもてなす」と読めます。食事をすることは体の栄養を満たすことばかりでなく、心も満たすことなのです。

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