学習指導要領の改訂で、様々な立場に広がる食育

食育活動の一つとして、酪農を通じた食育活動を目指す酪農教育ファーム(以下、ファーム)があります。2010年8月、その全国的な研究会として「日本酪農教育ファーム研究会」が発足しました。同研究会の会長で、東京都新宿区立東戸山小学校長でもある國分重隆さんは「食育の基本は食べ物を大事にする“こころ”」だと言います。その國分会長に、ファームの意義、食育との関わりについてうかがいました。

小久保ユミ子さんの顔写真國分重隆(こくぶ・しげたか)
1956年生まれ。早稲田大学卒業後、私立・公立小学校教諭として勤務。その間、東京都教育研究員(社会科)、東京都教育研究生(同)、香港日本人学校教諭などを経験。新宿区立淀橋第四小教頭、稲城市立長峰小校長を各5年経て、現在は新宿区立東戸山小学校長。「酪農の教育的価値の普及」をライフワークとしている。

Q:農業は他にもありますがなぜ酪農なのでしょうか

一言で言って「いのち」を頂いていることが実感できるからです。学習の目的にもよりますが、「食べ物を大切にする」というねらいで授業を組むとしたら、多くは米や野菜を育てる体験を取り入れます。しかし酪農は毎日、生きた動物に向き合い、いのちを守り育てる中で営まれる農業です。

Q:酪農は「いのち」を実感できるという考えですね

ファーム活動の最大の素晴らしさは、牛のといきを感じ、牛のいのちを実感しながら、牧場を第二の教室として学習ができるところです。食育を充実させるために、まず「いただきます」に心がこめられる子どもたちを育てたい。
学習指導要領の改訂で、様々な立場の方に食育の指導が求められています。私たちは、栄養教諭・学校栄養職員、家庭科教諭など様々な方に仲間となっていただき、共に活動することでファームがさらに充実発展することを願っています。

Q:はじめはどのように酪農を授業に取り入れたのですか

私が5年生の担任をしていた頃の話です。稲作の他に自分たちが興味を持った農業を調べる学習をさせたことがあります。その中で酪農を選んだ子どもたちが、酪農家さんに直接電話して、取材する場をつくりました。酪農家さんは「私たちは毎日いのちと向き合っている。一番悲しいことは次の日牛舎に行った時に、心をこめて育てた牛が亡くなっていること」、などの思いを子どもたちに話してくれていました。子どもたちが書いた御礼の手紙の内容は濃く、それだけでも酪農には他の農業とは違う価値があることを私自身が感じました。しかし「体験」させてあげられればより良いので、そのチャンスを探していました。
異動した2校目の学校の夏季施設の途中で、八ヶ岳の牧場で体験できることになりました。牧場の皆さんが好意的で、搾乳・哺乳・ブラッシング・給餌をさせてもらい、さらには広大な牧草地の中でお弁当を広げて食べました。

Q:子どもたちの目はさぞ輝いていたことでしょう

牛に触れることで体温を感じ、子牛に哺乳させることでエネルギーを体感し、「牛乳はこんなに温かかったの?」という発見もありました。酪農家さんは、オスはお乳が出ないので2年経ったら肉牛として出荷されること、メスは通常は10年以上生きるが毎日搾乳するので4、5年経ってお乳が出なければ肉牛になること、しかしそれは人間が人間のいのちをつなぐためにしかたないこと、だから毎日せいいっぱい愛情を注いで育てていることなどを説明してくれました。涙をうかべて聞いている子もいました。

Q:体験して見えてきた子どもたちの変化はありますか

ファームは食育として、まず「食の原点にはいのちがある」ということを教える貴重な場であると実感しました。「私たちは自分が生きるために他の生き物のいのちを頂いている」という思いが子どもたちにも育つのです。牛のいのちに触れてから、牛乳だけでなく、給食の食べ残しをしないようにという思いがどの子にも見られるようになりました。牛乳の残量を調査しました。元々よく飲むのですが、それまで飲めるのに飲まなかった子が飲むようになったり、欠席者がいるのに残量が減ったということもありました。
どこまでその気持ちが続くのかなと思っていたところ、先日の移動教室の食事で、うれしい場面がありました。一緒になった他校は騒がしいまま食事を始めていたのですが、本校の子どもたちは静かになるまで待ち、代表の子が手を合わせて「それでは皆さん、心をこめていただきます」と食べ始めたのです。あの牛に触れた体験をして以来、これが続いているということを担任から聞いて、さらに驚きました。

Q:「いただきます」は食育の基本ですね

教員も子どもたちと同じように体験することで、「子どもたちにこれを伝えなければいけない」という思いになります。それを給食指導に生かすこともできます。食育の根本は「食べ物を大事にする心」。「食べ物を大切にする心」は食の原点にある、いのちにじっくりと触れる体験をすることで育つのです。その上で栄養教諭や学校栄養職員などプロの皆さんの指導が入ることが理想の教育体系ですね。

Q:「日本酪農教育ファーム研究会」のこれからは

約10年前「酪農教育ファーム推進委員会」ができ、それ以降、ファームは全国規模で展開されています。フランスなどに比べ、国の積極的支援という点で今後の課題がありますが、様々な取り組みを視察し、予想以上に教育として成り立っていることがわかってきました。でも「やって良かった」というだけでは続きません。これまで推進委員会でも学習の場となる牧場を全国に増やすようにし、全国どこでも同じ学習ができるような教材を開発する努力を積み上げてきました。
このたび研究会を立ち上げた理由は、学校教育に酪農の持つ教育的価値を広め、学校教育を活性化させ、食育を充実させることです。また研究会という組織になることで、一人ひとりが「研究会」の会員という肩書きを持ち、それぞれが所属する教科の研究会や学会で語ることができ、酪農教育ファームの素晴らしさを世の中に堂々とアピールすることができると思ったからです。
まず本会のホームページを作り、会員同士が情報交換を行い、結束を強めていきます。これまで一実践者として積み上げてきた点としての努力から、面としての広がりを持ち、活動を互いに支援し合っていきたいと思っています。今年度中には全国の事例を集め「効果検証」する方法を明らかにすることを目標としています。そして次年時以降それを基に、たくさんの事例の成果を効果、その教育的な価値を世の中に発表していきます。

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