食育を通じて生活をプロデュースできる人に

「食は人を作る、食べ方は人生そのもの。食に携わる人々はまず自分の日常を正して、健康でなければいけない」…食のプロである調理師などを養成する立場の廣瀬喜久子さんは、専門の知識・技能はもちろん、「人格教育」を大切にしています。そして成長期の子ども達に、偏りなく食材に触れる機会を提供する学校給食の役割は大きく、食の有りようが健康を左右すると語ります。

廣瀬喜久子さんの顔写真廣瀬喜久子(ひろせ・きくこ)
学校法人誠心学園理事長。北海道出身、日本女子大学卒業。東京誠心調理師専門学校・国際フード製菓専門学校学園長をはじめ日本食環境研究所理事長、(社)全国調理師養成施設協会理事など、食と人材育成に関する多くの委員会や団体に関わっている。『高齢者に喜ばれる楽しい食事』、『心価の時代』など著書多数。

Q:食のプロとして食育とは何でしょうか

食育の役割は重要、しかも子ども達だけのものではありません。赤ちゃんからお年寄りまで、生きている以上は体の全てが食によって支えられているのだから、正しい食材の認識が必要です。食べたい物を食べたい時に食べたいだけ食べることができる環境だからこそ、季節や自分の体調を考えて食材を選ぶ事が出来る、などの認識です。
食には恵まれている日本ですが、食糧自給率は40%程度です。生産から流通、なるべくロスの少ない調理や食べ方を考えるなど、環境や資源への認識も必要です。これからの社会では食の全体像を考える視点を持たなくては、プロとして通用しなくなるのではないでしょうか。

Q:学校給食の役割をどのように捉えますか

学校給食を当てにするなという意見を時折り耳にします。確かに一日の食事の三分の一でしかない、年間では六分の一に過ぎません。また小麦粉や米など時代の要請に左右された過去の歴史もありました。それらを差し引いてもなお、食育基本法が確立された今日では、学校給食の果たす役割は大きいと思います。
特に幼児から小学校低学年は味覚の発達する時期。その年代に色々な食材に触れて、さまざまな味を覚えることが、将来大人になるまでの体づくりに必要です。
好きなものだけを好きなだけ食べてしまうのが子どもですから、そうではなく偏りなく食べることは人格形成にも影響します。

Q:つまり学校給食が食の有りようへのお手本に

食べるものを自分でコントロール出来ることは、健康な生活にも大きく貢献します。今、何が自分に必要な食材かを、きちんと伝えられるのが学校給食です。もちろん学校と家庭との連携も欠かせませんが、子どもは先生のおっしゃることは聞きますからね(笑)。
正しい食の有りようを学校給食から身につけるということは、経験値を身につけること。将来にも自分の食をコントロールすることが出来て、健康な生活をプロデュース出来る大人になることにつながるのです。

Q:学校で学生に接するうえで心掛けることは

人間が生きるという意味では、健康な日常生活を送ることが大前提ではないでしょうか。地位や富よりも、健康でなくては幸せを感じることは出来ません。そこで食の有りようが問われるわけで、食べ方は人生そのもの。だから学生にはまず自分自身の生活を、食を中心として健康という視点から見直すよう語っています。同じことを何度でも、あらゆる場面や機会を通じて地道に言い聞かせないと改善できません。
まず服装から、例えば女子学生の素足にミュール、短いスカート。見た目は格好が良いかも知れませんが、健康という視点からするとどうでしょう。大切な下半身を冷やす服装のうえ、転倒などの事故からケガをするもとです。
そして食事も…毎度のことなので、一食ぐらいは何でもいいだろうとお菓子だけで済ませたり。若い時ほど食を粗末に考えがちです。

Q:ご自身の学生時代で食に関する思い出は

大学時代は、栄養の勉強をしているのだから実践が大事だと、実家に帰省すると父親が経営していた土木会社の飯場の手伝いに行かされました。当時は電気もガスや水道もない山奥の現場でしたから、大勢の作業員の食事の支度は大変でした。
そんな環境でも、ベテランのお母さんたちの段取りには感心しました。大釜に薪で湯を沸かしたところに、洗ったお米をザザッと入れ、フタをして火加減を調節した後はもう手をかけない。それで大量のご飯がちゃんと炊けているのです。
集団調理の原点に触れた経験ですが、お陰様で、今でも薪とお釜でご飯を炊く自信がありますよ。

Q:日常の生活態度が大切なのですね

ダイコンとカブは栄養的には似たようなものですが、食べた作用に違いがあります。ダイコンは体を冷やしますがカブは温めてくれる性質です。だから同じダイコンでも、暑い夏にはサラダやおろして食べれば体を冷ましてくれますが、冬に食べるのならおでんやふろふきにするなど、温めて食べれば体に優しい。このように食材の栄養価だけでなく性質も考えた調理を、日常生活で実践できることが大切です。
食のプロを目指す人ならば、まず足元を見つめて自分自身の行動から正していくべき。そのうえで食を通じて自分の家族を満足させる、幸せにする、生活のプロデュースが出来なければいけません。そして地域や社会、その延長線に日本の国全体への貢献というものがありますね。
技術や知識は大切ですが、それを生かすのは『人』ですから、人間教育を最も大切にしたいと思っています。

ページの上へ