放射能不安〜流通している食品は安全です

東京電力福島第一原子力発電所の事故により、福島県と近県産のホウレンソウ・カキ菜、福島県産原乳の出荷停止だけでなく、放射性物質拡散の不安が他の野菜果物、飲料水や海産物などにも広がっています。内閣府食品安全委員会専門委員の唐木英明さんは科学的な食品安全の専門家として、「今回の暫定基準値に示されたセシウム5mSv(ミリシーベルト)/年、ヨウ素2mSv/年という値は安全性を示すもので、この基準を超えた食品は産地から外に出ません。ですから流通に出回っている食品は絶対に安全です」と冷静な行動を呼び掛けています。

唐木英明さんの顔写真唐木英明(からき・ひであき)
日本学術会議副会長、東京大学名誉教授、内閣府食品安全委員会専門委員、世界健康リスクマネージメントセンター国際顧問、食品安全情報ネットワーク代表、食の信頼向上をめざす会会長。東京都出身、1964年東京大学農学部卒業。『牛肉安全宣言——BSE問題は終わった』(PHP研究所)他著書多数。

Q:放射性物質の食品への不安が広がっています

「食の安全」に関する緊急事態ついて、私は牛肉のBSE問題以来の重大事件として捉えています。その当時の教訓が今回、事故発生からの危機管理にどこまで生かされているか、試されているのです。その評価は今後に待つところです。
放射線の影響には基本的に、がんのリスク、がん以外のリスクという二つがあります。放射線を浴びることで生じるがん以外のリスクとは急性の症状として、吐き気、腹痛、やけど、髪の毛が抜けるなど。これは年間1000mSv以下では絶対に表れないとされているものです。一方のがんのリスクですが、年間1000mSvゆっくり浴びた時が5%、急激なら10%のリスクが増えるとされています。しかし放射線を浴びなくても致死性のがんは30%、それ以外も含めると50%の人はがんにかかると言われています。科学的には「100mSv以上の放射線を浴びた時に一応がんのリスクと放射線量の相関が見られる」というデータがあります。
しかし100mSv以下になると元々あるがんのリスクなのか、放射線の影響なのか、見極めができないのです。またそのため世界中の科学者の間でも様々な説があり、議論が分かれるところでもあります。

Q:暫定基準値とは何ですか

食品衛生法に基づいて厚生労働省が緊急に3月17日設定した基準で、飲料水や野菜・穀類、肉・魚などの食品別に、放射性ヨウ素、放射性セシウムなどそれぞれに流通が規制される数値です。厚労相からの諮問を受け、内閣府食品安全委員会がそのリスク評価を行い、3月29日「緊急とりまとめ」が通知されました。
緊急に行ったリスク評価なので、食品安全委員会では「今後、継続して食品健康影響評価を行う必要がある」としています。

Q:安全性はどうなのですか

例えば飲料水(牛乳・乳製品)の放射性ヨウ素について、暫定基準値は1k当たり300Bq(ベクレル)以内です。実効線量系数を掛けるとシーベルト(人体への影響度)が算出でき、300Bqは0.0048mSvになります。食品安全委員会緊急とりまとめのリスク評価では、放射性ヨウ素50mSv/年(甲状腺等価線量)、実効線量として2mSv/年は「相当な安全性を見込んだもの」として評価しています。また放射性セシウムについては5mSv/年ですが、これについても「かなり安全側に立ったもの」というのが食品安全委員会の評価です。
ちなみにその背景として、自然界からの放射線量としては、地域による差が大きいのですが年間1〜13mSv程度を浴びているというデータがあります。これが健康障害に至っていないという国際機関の評価です。

Q:いろいろな基準があるのはなぜですか

それぞれの基準は何のために作るのかという目的が違うためです。例えば飲料水についてWHOでは「0.1mSv/年」としていますが、これは災害緊急時の基準ではありません。ICRP(国際放射線防護委員会)では緊急時「20〜100mSv/年」までと定めています。そのような中で今回、日本では暫定基準値「5mSv/年」と決めたわけです。上記の放射線リスク評価と同様に諸説があるので、今後もう一度きちんと議論すべき宿題でしょう。
科学の世界で説が割れている一方で、管理するうえでどの基準をとるのかという判断にも、人々が満足出来るのかという「民意」があり、それで「経済」が成り立つのか、そして「技術的」に可能なのか、など色々な要素を考慮して設定することになるのです。

Q:風評被害はなぜ起きるのでしょうか

風評被害は大きな事故・事件が起こったら直ちに生じるのではありません。その事故で自分が被害をこうむるのではないか、という不安から生じるのです。管理している行政やメーカーが信頼できるか出来ないかによって起きます。風評被害は、行政・メーカーが消費者に被害を与えないと、納得させられるかにかかっています。今回ある意味で県単位で産物の出荷を止めてしまったことは、風評対策としてやむをえないところもあります。これは安心対策であって、危険だから止めたのではありません。

Q:給食関係者に向けて

今回の暫定基準は食品安全委員会が評価し、流通制限が行われ、基準を超える食品は一切、外に出荷できません。ですから市場に流通している食品は全て安全です。どうか安心して使ってください。 暫定規制値は非常に厳しいところで決められています。なぜかというと、規制値をちょっと超えたとたんに健康被害が出てはならないからです。

※ この記事は食の安全安心財団・食の信頼向上をめざす会「第2回メディアとの情報交換会」(2011年4月7日開催)から抜粋・構成しました。

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