「大切な人を喜ばせたい」野菜嫌い克服の原点

大根、ほうれん草などごく普通の野菜でも、地場の産物にはパワーがあると言います。そのことを子ども達に伝えたいと、親子を対象に開催している「味覚塾」では、毎回が発見。野菜のおいしさの感じ方にも、子どもと大人の味覚には違いがあるようです。自らを"料理人"と呼ぶ自身の経験を重ねながら、子どもの野菜嫌い克服法の一つとして「子どもが作った料理を、親や大人はほめてあげて、喜んで食べてください」と提案。野菜嫌いだったからこそ、子ども達の気持がよくわかると言います。

椿直樹さんの顔写真椿直樹(つばき・なおき)
1967年、横浜市出身。調理師学校卒業後、フランス、イタリア、スペイン、アメリカ、韓国などの料理店のシェフを勤めてきた。生産者、流通業者、飲食店従事者等とのネットワークにより"地産地消"に取り組む横浜野菜推進委員会を平成15年10月に設立。消費者(親子)を対象にした産地見学、栽培や収穫体験、料理教室などを展開している。農林水産省「地産地消の仕事人」(平成21年度)認定。

Q:地産地消にこだわる理由は

以前、任されていたスペイン料理のお店で、全国各地の食材を使って「特産品フェア」を開催した時ですが、一般的な野菜類は地場の生産者さんから直接仕入れてみました。そこで目にした野菜が色、においからして全く違う事に驚いたのです。野菜の持っているポテンシャルが出会った瞬間で分かりました。
毎日毎日ずっと皮むきばかりさせられた修業時代から始まって、長い調理人としての人生では、仕入れた普通の野菜を普通に洗って、むいて、切って、当たり前に接してきたのです。切ったばかりのニンジンを時折り口に入れたりしても、「ちょっとおかしいのでは?」と思うほど、全くニンジンの味がしなかったのです。
仕入れた地場野菜は大根、長ねぎ、ほうれん草、小松菜など、ありふれた野菜なのに、こんなに違う。内に秘めたパワーと言いますか、それをどう伝えるか、真剣に考えました。せっかく作って下さった農家さんなどに、どうやったらお返しができるか。よく「料理は加減乗除」と言われます。地場野菜の持ち味を生かす料理は、手をかけ過ぎず、しかし必要な部分には手をかけて。食材を"昇華"させなくてはいけないという気持ちでいっぱいでした。

Q:地場産の野菜パワーがわかるのは

実は私自身、子どもの頃は野菜嫌い、特にニンジンがどうしても食べられなくて苦手でした。それを心配した祖母が、自分が家庭菜園で作ったニンジンをすりおろしてジュースにしてくれたのです。その頃の野菜の記憶が、強烈に今も残っています。その体験があったから、地場野菜に出会ってすぐに「これだ!」と思いました。あの頃の色・香りなど記憶がよみがえったことから、そのすごさが直感できたわけです。
私がもし、元々、野菜大好き人間だったとしたら、逆に、地場野菜のすごさに気付かなかったかもしれません。そう考えると"野菜嫌い"は必ずしもマイナス面ばかりではなく、料理人として一つの個性だと言えるかもしれません。

Q:野菜嫌いの人の気持ちが分かる

親子で食育に取り組む「味覚塾」を開催していますが、野菜嫌いの子どもが野菜に親しんでもらうきっかけとして、産地見学、栽培や自分で収穫した野菜での料理と試食を体験してもらっています。特に料理の体験は、手で切ったりこねてみたり、目と耳で焼ける色と音を確かめ、鼻でにおいを感じ、舌で味わってと五感を使って野菜と向き合います。これまでの塾で、簡単に作れて好評だったのは「トマトのシャカシャカサラダ」。トマト嫌いだった子が、トマトのおいしさを発見できたと喜ばれました。
塾には親子で参加してもらうのですが、調理の場面では、子どもと大人とはそれぞれ別のテーブルに分かれてもらいます。そこである実験をしたところ、興味深い結果になりました。
収穫して1か月間冷蔵庫で保存しておいた小松菜と、朝取りの小松菜をそれぞれ、生とボイルした状態とで、どちらがおいしく感じるか、子どもと親に食べ比べてもらいました。その結果は、子どもの8割が朝取りの小松菜を選択。ところが8割の大人は1カ月冷蔵保存の方を選択。大人と子どもとでは全く逆の結果だったのです。

Q:ところで料理人の道を志したきっかけは

出発点は小学生の時ですね。両親がたまたま一緒に病気で寝ついてしまった事がありました。そこで、なんとか栄養をつけて早く治ってほしい一心で、それまで全く料理などした経験もないのに料理を作ったのです。卵をただ焼いただけの、料理とは言えないかも知れませんが、親は「おいしい、おいしい」と喜んで食べてくれたのです。身近な人や大切な人に、喜んでもらいたい。そこから始まったと思います。
それからは、すっかり料理に取りつかれてしまって。小学生なのに自分の小遣いをため、料理の本を買って読み漁りました。早く学校を出て料理人になりたかったですね。

Q:次代に伝えたいことは

料理人として20数年の人生、せっかくなら、そこから得た私なりの価値観など何か少しでも残せれば幸せです。
学校や色々な所から頼まれて、食育をテーマに講演をする中で、必ず「4つの心」について話します。私の調理人人生で大切だと感じた事で、「真心、純粋な心、もてなしの心、尊敬の心」です。
第一に「料理は真心」だと思います。生産者、料理する人、食べる人…どの立場の人でも「真心」をこめて「食」に向き合わなければいけないと考えます。
次は「純真な心」です。奇をてらう事なく、当たり前の事を、当たり前にする…安全でおいしい物はそうして作られます。
そして「もてなしの心」で仕上げます。
最後に、関わりのある全ての人への「尊敬の心」を忘れてはいけません。

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