とりたての味を身体で知る食育

愛媛大学農学部の小田清隆准教授は、農業高校の教員時代の活動を発展させ、「子どもたちに本物の体験をしてほしい」と話します。当初は一つの小学校と農業高校の交流体験から始まった活動が、今では「都会と田舎を結ぶ食育ネット」という組織になり、年々発展した活動となっています。農業から始まる食育の在り方について聞きました。

小田清隆さんの顔写真小田清隆(おだ・きよたか)
愛媛県内子町生まれ。愛媛県立の農業高校で7年、愛媛大学農学部附属農業高校で21年教鞭を執り、農業及び情報を担当。2008年、愛媛大学農学部生物資源学科が「農山漁村地域マネジメント特別コース」開設時に准教授として大学へ移籍(都市農村交流論研究室)。様々な活動の中で「都会と田舎を結ぶ食育ネット」を立ち上げ、代表を務める。(HP:
http://syokuikunet.web.fc2
.com/)

Q:食育の始まりは、小学生との交流からと伺いました

私が愛媛大学農学部附属農業高校にいた頃でした。神奈川・鎌倉の小学校の先生が食育に興味をもっていて、知り合いを介し私のところに話が来まして、「何かできるだろう」という軽い気持ちで交流を始めました。誰にでも身近な「食」をテーマに、高校生が学んだことを小学5年生に伝えていくというシンプルなもので、まさに都会と田舎をつなぐ活動そのものでした。そうしていくうちに、その小学校の先生がこの交流を研究授業(総合学習)で発表することになり、それを機に距離を縮めたいとテレビ電話で話すことにしました。平成18年でしたので、携帯電話をつないでのテレビ電話から始まりました。
教室同士をつないでもおもしろくないと思ったので、高校生はビニールハウスから遠隔で鎌倉の子どもたちに説明を行い、とても盛り上がりました。その盛り上がりから、愛媛の食材を使った愛媛の郷土料理を作ろうという話しに発展。単なる調理交流だけでなく、それに至るまでに、食材をどのような人がどのように作るかをメール、インターネット、FAXなどで交流し続けました。

Q:食育でITを活用した点がユニークです

結果としてこの活動は第7回インターネット活用教育実践コンクール(主催/文部科学省、インターネット活用教育実践コンクール実行委員会)で、「内閣総理大臣賞」を受賞しました。鎌倉の子どもたちは自分たちが一緒にやったことが受賞したという喜びもあり、愛媛のお兄さん、お姉さんに会いたいという気持ちになり、実際に愛媛に来るというリアルな交流に発展しました。これは高校生にとっても刺激になりました。
普段は授業で教えてもらい、農業や食の知識は持っているけれども、それをアウトプットする場がありません。子どもたちに教える以上は、自分たちも勉強しなければならないので必死でしたが、教えることが自信になりました。その貴重な体験交流を継続していこうと「都会と田舎を結ぶ食育ネット(=食育ネット)」を組織したのです。

Q:食育ネットの活動はどのようなものですか

今年度は「子どもゆめ基金助成活動」(独立行政法人国立青少年教育振興機構)の助成を受けながら活動を続けています。主役は都会から田舎を訪れる子どもたち、地元の高校生や大学生の学生スタッフです。大人のスタッフや地域の人たちは、それを見守り、支援しています。ありのままの田舎で子どもたちを受け入れる、田舎体験が活動内容です。
活動にあたっては、学生スタッフの出番です。全身でぶつかってくる子どもたちを受け止め、彼らも語って子どもたちと交流しています。都会の子どもたちにとってありのままの田舎体験は、最初はとてもしんどいものです。けれども子どもたちは本当に様々な体験を積み、変わります。子どもたちだけのいわゆるグリーンツーリズム体験は、危険がいっぱいです。農水・文科・総務省が提唱した「子ども農山漁村交流プロジェクト」がいわゆる田舎に根付かなかったのも、この危険性にあります。そこに高大生がスタッフとして参加し、見守ることで、安心・安全が確保でき、相互に学び合いの関係も生まれます。

Q:子どもたちはどのように変わりますか

子どもたちは、とりたてをその場で食べて、本物の味を知ります。しいたけがどうしても食べられなかった子が、その場で焼いて食べたら食べられるようになったとかそんな例はたくさんあります。食育はいろんなパターンがあると思います。
今、食育という言葉は栄養の部分に傾斜しているような気がします。もちろんそれは大切なことで否定はしませんが、頭でわかっていても子どもたちは食べません。本物の味を知ったら、苦手なものも絶対に食べられるようになる、という思いでやり始めた活動です。我々は我々の立ち位置で、できる食育を続けています。

Q:食育推進全国大会(2012年6月/横浜)に出展した手応えは

ブースを見て関心を持ち、食育ネットの体験について話を聞いてくれる方がたくさんいらっしゃいました。さらに私も、同じようなことを実施している他の地域の方とお話しをしました。ニーズは多いのだと感じています。まだまだやれることはありますので、フルシーズンで活動を続けて行きたいと思います。
今、愛媛県南予地方には9市町あるので、そこに活動を広げていき、地域の人たちも自ら地域資源を見つけてほしいと思います。そして地域の個性を出して、このような活動を続けることが体験者のリピーター増にもつながっていくと思っていますし、地域の人たちのスキルもつくでしょう。食育推進全国大会のブースで手伝ってくれた子は小学生ですが、もう内子町に10回くらい来ています。

Q:先生の考える食育とは

やはり生(なま)の体験ですよね。とにかく生の体験を通して本物を見て食べてほしいのです。この活動は鎌倉の小学生と愛媛の高校生が始めた「食べ物の向こう側を見てみよう」というところがスタートです。食べ物の向こう側が見えると、みんな食べ物を大事にしますよ。おじいさん、おばあさん、おじさん、おばさんが汗を流しているところに子どもたちが入っていく。これは田舎の活性化にもつながっていきます。
さらに、子どもたちの親は団塊第二世代の人たちとなっており、それらの世代はふるさとを持たない人も多い。子どもたちに向けての活動ですが、保護者に向けた田舎からのメッセージの発信でもあります。様々な形で農林漁業に触れ合うのも食育のかたちだと思っています。これまでの交流実績は、子どもたちだけでも延べ400名を超え、学生他を入れると600名超になります。経済的な面も含めて、大きな成果をあげていると考えています。

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