自身の体験から生まれた「五感チャート」を食育に

「しかない料理研究家」というこれまでにない肩書きで、ユニークな着眼による新しいレシピを提案している五十嵐豪さん。「○○しかない料理」は、素材の味を引き出すことにつながり、素材の味を引き出すには五感が大切と話します。それは、幼少期に食べることが大好きだったがよく噛まなかった、噛むことの大切さについて理解していなかったという、自分自身の経験も少なからず影響しているそうです。

五十嵐豪さんの顔写真五十嵐豪(いがらし ごう)
日本一料理がヘタッピな「しかない」料理研究家。
東京都府中市生まれ。専修大学経営学部で公認会計士を目指すものの、進路変更。所持金4万円で在学中に開業し、テレビ番組のフードコーディネートを一人でこなす。4年次に「彼女につくってもらいたい恋レシピ」(早川書房)を出版。当時は料理研究家として最年少で書籍出版や経済産業省での講演など活躍。企業のレシピ制作担当をメインの仕事にし、年間2,000レシピを監修する。

Q:大学在学中に公認会計士を目指していたそうですが、そこからどのように今の道に進むことになったのでしょうか

大学で公認会計士の勉強をしていたのですが、ある時、本当にこれはやりたい仕事なのかと疑問に感じ、一晩かけて考えました。本当はやりたいことではなかった、やりたいことがある人はかっこいいですよね。そこで、「かっこいいと思う仕事」はなんだろうとすべて書きだしてみると、意外とやりたいことがあったのです。人生の中でこれを全部やってみようと思いました。料理には興味がありましたので、カフェ、飲食店を作ろう!と思いカフェの経営について勉強したのですが、半年経ってこれじゃない…と思うようになりました。なぜかと言うと、飲食店を開業して建物の壁に囲まれながらその中でずっと仕事をするのは何かが違うなと思ったからです。
そうした時に、偶然テレビで「栗原はるみさん」の特集を見て衝撃を受け、今の道に進むことに決めたのです。母親が栗原さんのことが大好きで実家に本がたくさんあり存在は知っていましたが、テレビの特集を見て、栗原さんは料理研究家でありながらも服や雑貨、家のデザインまでも手掛け、食の全世界で活躍されていることを知り、とても感動しました。そこからフードコーディネーターの学校に半年通って、大学在学中に独立しました。

Q:今は「○○しかない」料理を提案する「しかない料理研究家」として活躍していますが、どのように活動を始めたのでしょうか

大学3年の4月に独立したのですが、もちろん実績と経験は限りなくゼロです。「一歩一歩経験を積もう」と出版社などを回りましたが、全滅。チラシを作って地元の府中を回って、ようやく中国人留学生向けのフリーペーパーに採用してもらい、「日中共同料理サミット」という企画を実現しました。やっとゼロからイチになり、その後は、大学4年の時に「未来創造堂」という番組でフードコーディネートを担当するチャンスにも巡りあいました。そうしていくと出版社さんにも話を聞いていただけるようになり、初めての本を出版することになりました。その後、知人から編集者さんを紹介してもらい、「作品集」を作ることになったのですが、時間もなく焦っていた時に「“もやし”しかない」料理を作ってみたらどうだろう?とふと思い、もやししか使わない料理10品を作品集にして提出しました。これはおもしろい、と評価していただきました。

Q:その経験から、「○○しかない」を進化させた活動につながったようですね

当時は「“もやし”しかない」というインパクトのあるものでしたが、今では「○○しかない」と言っても、余りものではない料理を研究しています。「しかない料理」のメリットは3つあります。まずは「時間の節約」と「お金の節約」、そして「○○しかない」からこそ「素材の“味”を引き出す」ということです。そして「素材の“味”を引き出す」ことから「素材の“おいしさ”を引き出す」に進化させていきました。例えば根菜ならゆっくり火を通すとか、トマトなら旬の時期、旬より先、後によって味も調理方法も変わります。
「しかない料理」を発展させ、「大盛りダイエット」(脳を効果的に刺激し少なく食べても満腹感を得る、低カロリー料理)についてお話しする機会が増えました。これは食事の統合的なおいしさを引き出すことにつながり、これを始めてから五感について深く考えるようになりました。味は五感のうちの「味覚」という一つの感覚ですが、食べることは味覚だけでなく「噛みごたえ」(触覚)、「香りや風味」(嗅覚)、「歯触り」(聴覚)、「見た目」(視覚)のすべてが大切です。
例えば一言で「食感」と言っても「噛みごたえ」なのか「歯触り」なのか、「モチモチ」なのか「カリカリ」なのか、それを区別することで本当のおいしさが引き出せるのだと思います。おいしいものを食べることは、五感を刺激することにつながります。
「噛む」ことは自分の食体験ともつながっています。3歳で冷蔵庫を開け閉めしての飲み食いが癖になり、通常のサイズの洋服が入らないくらい太っていた時期がありました。よく噛まなかったことが原因です。「よく噛まないとだめよ」とは言われていましたが、当時は、噛むことの意味をよく理解できていなかったのです。これは大きな損失なので、噛むことにもっと警鐘を鳴らさなくてはと思っております。

Q:「自炊育」という言葉を使っていますが、食育についてはどのようなお考えでしょうか

以前、一人親の子どもたちに向けた食に関する出前授業を行いました。家に一人でいても何か自分で作ってみようというものです。まず作ってみる、手を動かす、頭で理解する前に体で知ろうよ、というスタンスで子どもたちに「感動体験」を体で覚えてもらっています。五感を刺激することで、子どもたちの将来の幅を広げてあげたいと願うからです。
学校給食は、どういった目的で作っていて、どのように盛り付けるのか、そこにはきちんと理由があるはずです。子どもたちはそこから教えてもらうことで、学校給食の意味がわかってくるのではないでしょうか。
私は最近レシピの横に五感のチャートを付けるようにしています。学校給食でも献立の横に五感のチャートを付けていただくと、学校給食のコンセプトが上手く伝えられるかもしれません。毎日食べる学校給食を使って、五感を生かした「賢くなる食育」につなげてほしいと思っています。

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