食育にも結果の“見える化”が大切

専門の栄養学の立場からスポーツ選手のトレーニングを支えている、公認スポーツ栄養士の田口素子さんの持論は、「栄養は、意識や知識が高まっただけではなく、実際にどのように食べているか、行動が伴わなければ意味がない」。それはトップを目指すスポーツ選手も、学校給食を食べている小中学生でも同じだと言います。そのためには結果を示すこと、「成果を見える化することが大切」と強調します。

田口素子さんの顔写真田口素子(たぐち もとこ)
博士(スポーツ科学)、公認スポーツ栄養士、健康運動指導士。専門分野はスポーツ栄養学。国立健康・栄養研究所健康増進部協力研究員、国立スポーツ科学センタースポーツ医学研究部契約研究員、日本女子体育大学准教授を経て現在、早稲田大学スポーツ科学学術院准教授。2010年秩父宮記念スポーツ医・科学賞奨励賞受賞。主な著書に『戦う体をつくるアスリートの食事と栄養』(共著、ナツメ社)、『新版コンディショニングのスポーツ栄養学』(共著、市村出版)など。

Q:公認スポーツ栄養士とはどのようなものですか。

スポーツの専門知識と管理栄養士としての知識と能力とを併せ持つ、スポーツに関する栄養サポートの専門家です。平成19年度から始まった公的認定制度で、日本体育協会と日本栄養士会が、体育と栄養の両面から養成と認定を行っています。
スポーツと栄養の両面から専門的な指導ができる点で、世界的にも画期的な制度です。今後は各地域やより多くの競技団体に認定者が配置され、サポートを展開すると同時に、子どもから大人まで幅広い競技者の栄養指導とその結果に関するエビデンスを重ねることが期待されます。

Q:栄養士からスポーツ競技にかかわった切っ掛けは。

管理栄養士を目指していた学生時代、研究室の関係で中学・高校のクラブ活動指導者と接する機会がありました。当時、スポーツの世界には栄養学の知識がまったく取り入れられていなかったのです。「栄養学の知識があれば、もっと強くなれるのに」、「正しい栄養学を教えたい」との思いを強くしました。
その頃のスポーツ指導の現場は、めちゃくちゃな食生活の一方でスパルタな練習は当たり前、という時代でした。たとえば減量しなければならない選手には、運動量ばかり追求して食事はほとんど食べることを禁止します。選手は体重を増やさないようにと食べ物の重量だけを気にして、ご飯を食べないのに、重量が軽いからとアメやスナック菓子を代用にしてしまう。当然ですがひどい貧血などでコンディションは最悪になり、ケガや故障が増えるという悪循環でした。
トレーニングと栄養指導とは車の両輪です。同じウェイトで広げていかなくては、間違った現状を変えられないと感じて、腰を据えて取り組むことにしました。

Q:なぜエビデンスに基づいた食育が大切なのでしょうか。

選手の栄養サポートを担い、管理栄養士として初めて私がオリンピックに同行したのが1992年バルセロナ五輪からでした。日本陸上競技選手団支援コーチという立場でしたが、その当時は健康食品やサプリメントのブームが始まって、手軽にとれるので選手たちにもかなり浸透していました。食事がベースにあり、足りない部分を補助的にとる食品なのに、サプリメントだけとっていれば良いと言う選手もいました。主客転倒ですね。
そこで私は合宿所に一緒に泊まり込みながら、バイキング給食を取り入れました。同じ陸上競技でも種目によって必要とされる身体能力には違いがあるので、食事内容も人により違いがあります。自分が何をどれだけ食べなければならないか、自分で食事を管理できるように“とり方練習”をしたわけです。選手は毎食のトレーを写真で記録しておき、その後「この食事では体脂肪が増えますから、もっと油分を減らしましょう」など、個別指導を継続しました。
バルセロナ五輪で日本の陸上競技は、前回までの成績を上回る好成績を残しました。もちろん栄養指導だけが理由ではありません。しかし栄養学の大切さに気付いたトレーナーやドクターなど専門スタッフが連携できた結果です。選手には改善できたデータや結果で示すことが一番の励みになるのです。

Q:スポーツ選手も子ども達も食育が重要ですね。

2006年からの4年間、全国のスポーツ少年団に所属する小学生親子3800組を対象に「小学生を対象としたスポーツ食育プログラム開発に関する調査研究」(日本体育協会)に取り組みました。その結果として、例えば強いチームの子どもはきちんとした食事をとっています。これに比べ弱いチームでは朝食の欠食率が高かったです。このように数値として食事と競技成績の関係では有意な差が見られましたが、さらに踏み込んだ食事の内容まではアンケート調査では分かりません。
でも子どもに朝食をきちんと食べさせることが大切なのだ、という意識が保護者にあれば欠食率が減り、いずれは競技成績にも反映されます。ポイントはこのことを保護者にどう伝えるかです。

Q:今後の食育の工夫についてどう考えますか。

この10年で栄養が大切、食育は重要だと、意識や知識は高くなってきたと思われます。これからはその意識・知識が実際の行動を伴わなければいけません。実際に行動した先に結果が出るのです。
身体を動かしたり運動すると楽しいです。するとお腹が空くから、運動で使ったエネルギーを食事で取り入れなくてはいけません。運動と食事の正しいサイクルができれば、体調が良くなり成果に現れます。具体的にどこがどう改善されたか…例えば骨密度が上がったとか、現在は科学の力を借りることで指標を目で見える化できます。
このようにスポーツを介した食育が、子どもにも保護者にも分かりやすく効果的でしょう。

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