野菜嫌いを克服した経験を子ども達に伝える

第8回学校給食甲子園で初めて男性栄養士が優勝を果たしました。東京都文京区立青柳小学校の栄養士・松丸奨さんです。小さな頃は野菜が大の苦手だった松丸さんですが、今では「野菜が苦手な子どもたちにも、おいしく野菜を食べてほしい」と、江戸東京野菜など東京産の食材にこだわった学校給食を作る毎日。これまで学校給食で使った江戸東京野菜と東京産食材は、「のらぼう菜」「後関晩生小松菜」「品川かぶ」「馬込三寸人参」「東京牛乳」「東京軍鶏」など19種類にものぼります。

松丸奨さんの顔写真=松丸 奨(まつまる すすむ)
千葉県出身。高校卒業後、栄養専門学校へ。卒業後千葉県内の市立病院にて勤務。5年間病院食の献立作成、栄養管理に携わる。平成20年より文京区立青柳小学校に勤務。平成24年第7回全国学校給食甲子園にて東京都代表に選出、平成25年第8回大会において全国優勝。平成25年度文京区学校給食優良校に決定。

Q:学校給食甲子園では、全ての献立に江戸東京野菜を使っていましたが、江戸東京野菜との出会いは。

5年前に学校現場で栄養士を始めたばかりのころ、子どもたちと話していた際に「東京のイイところは」と聞くと、「都会でかっこいい」「渋谷、池袋がある」などといった答えが返ってきました。「こんなおいしい食べ物がある」といった食の話題が全く出なくて、少し寂しい気持ちになりました。かつて江戸が栄えたのは食が豊かだったからという背景もあるので、そのことを子どもたちに知ってほしかったですね。いずれ大学生や社会人になった時に、「思い出の給食」が話題になれば、胸を張って東京の学校給食の思い出を話してほしいと思ったのです。
東京は他の道府県に比べて地場産物が少なく、都心では学校の周りはビルばかりで畑はありません。そこで何かないかと東京の地場産物を調べていくうち、「江戸東京野菜」というものがあることを知りました。でも江戸東京野菜を作っている農家さんは少なく、市場にはほとんど出回っていません。農家さんに直接頼んでみましたが、やはりだめでした。でもあきらめきれず、休日に農家さんのところに行き、お手伝いをさせていただきながら勉強しました。そうするうち縁あって、少しだけ学校給食に分けていただけることになりました。

Q:子どもや先生方の反応はいかがでしたか。

最初はピンと来ていないようでしたが、各教科・各学年で授業をしたり給食時間に説明することで少しずつ理解してくれるようになりました。今では2年生が授業で品川カブや寺島ナスを育て、その生育の難しさを一緒に体験しています。先日は品川神社で行われた品川カブの品評会で、本校の出品が12チーム中4位をいただきました。

Q:ご自身がそもそも小さい頃に野菜が苦手だったと聞きましたが、今では野菜を題材にした授業や、たくさんの野菜を献立に入れていますね。

ほとんどの野菜が苦手、魚も苦手、風邪もひきやすく背も低くて、小学校低学年なのにいつも疲れているという子どもでした。ある時、担任の先生が栄養士さんのところに連れて行ってくれ、栄養士さんから野菜と身体の話をしてもらったことで変わりました。全部食べなければと思っていたのが、栄養士さんに「ひと口でいいんだよ」と言われたことをきっかけに少しずつ野菜が食べられるようになり、最終的には学校給食が大好きで作り方を聞きに行くくらい学校給食が大好きな子どもになりました。
本校に着任した当初、魚、野菜、豆類の残菜量が多かったのです。献立は栄養価が満たされているのは当然ですが、おいしさがなければ子どもたちは食べてくれません。味付け、見た目などこれまでと大きく変えていくことから始めました。そのために「コク」のある味付けを目指し出し汁もこだわり、野菜は切り方も変えました。

Q:調理員さんから大変だ、などの声も上がったのでは。

「そこまでやるの?」という声も、もちろんありました。でも前職で病院の栄養士を務めていたこともあり、丁寧な仕事をしたいという思いは変わりませんでした。子どもたちにこうやって食べてもらいたい、これを知ってほしいからこうしたい、という思いを伝えて皆さんに協力してもらいました。
誰よりも早く出勤して、食材を納入してくれる方、調理員の皆さんとコミュニケーションをとっています。食材はただ仕入れるのでなく、その人を介して旬の時期や食べ方などの情報も仕入れられるのです。逆に子どもたちの様子や感想をフィードバックする、パイプの役目を果たせると思っています。

Q:江戸東京野菜にこだわり続ける理由は。

今は作っている農家さんが少ないので、学校給食で頻繁に出すことはできませんし、どの学校でも、というわけにはいかないと思います。でも将来的には江戸東京野菜が東京中の学校給食で当たり前になってほしいと願っています。3年目頃に江戸東京野菜を取り入れ始めましたが、その頃から残食も減ってきました。今では煮浸しやサラダのおかわりに行列ができます。
学校給食甲子園に出場できたおかげで、多くの方に学校給食を評価していただける機会を得て、農家さんや調理員さんへの恩返しにもなりました。

Q:給食を通してどのような子どもたちに育ってほしいですか。

3年生になると社会科で昔の食生活について学ぶ単元があり、本校ではそこで江戸東京野菜について学びます。子どもたちには食の知識を増やしてあげたいし、それが子どもたちの人生のプラスになると思っています。毎日の配膳には全クラスをまわって、栄養士の顔が見える関係を築いていきたいと思います。

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