野菜の旬は年に一度、心豊かに楽しむ料理を

きゅうりをポキンと折り、再びくっつける。数秒後、手を離してもくっついて落ちない。手品のようですが、タネも仕掛けもありません。「旬のきゅうりの証しだね」と目を細めます。取材にうかがった6月中旬は、きゅうりにはまさしく旬の時期です。自然に生育する野菜が、次への命をつなぐ準備をするのが旬。料理をする人が野菜の旬を知り、旬のもので調理するようになれば、野菜嫌いはなくなるのになと語ります。

内田悟さんの顔写真内田悟(ウチダ サトル)
1955年、北海道出身。レストラン専門青果店「築地御厨」店主。フランス料理店で修業中、野菜に関心を深め、26歳から青果納品業に勤務。05年、レストラン専門青果店「築地御厨」を創業。07年から「やさい塾」を無料で開催。野菜のプロとしての知識・経験を元に、一般消費者に分かりやすい野菜選びのポイントなどを伝えている。主な著書=『内田悟のやさい塾 旬野菜の調理技のすべて 保存版(春夏)』(メディアファクトリー)、『同 秋冬』(同)、他多数。

Q:子どもの野菜嫌いをどのように感じますか。

背景にあるのは、野菜の"旬"が分からなくなってしまったこと。日本では特に戦後からトマト、きゅうり、にんじん、キャベツなどの一般野菜と呼ばれるものに顕著です。野菜の旬の定義は、原産地の気候にあっていること。だから、年に一回しかないんです。旬の時期は、自然の力で育つことができるので、栄養も充実して最も味わい深くなります。料理を作る人(家庭では母親、学校では栄養教諭、学校栄養士)が、野菜の旬を知って、もっと子どもに伝えてほしいですね。

Q:子どもに野菜の旬をどのように伝えればよいでしょうか。

野菜に関心を寄せて欲しいですね。野菜は太古から命を繋いできたものであることに思いを馳せて下さい。元々、野菜は野(の)にあった菜(な)です。それを人間が里に持ってきて栽培し、原生地から世界各地に広がりました。
今の日本には約160種900品目の野菜がありますが、日本に元から自生していたのはそのうちの8種類程度…セリ、みょうが、自然薯などで、たった5%くらいしかしかありません。その他95%の野菜は外から持ち込まれたものです。それぞれの原産地は当然、日本とは異なる気候風土だったはずです。ところが子孫を残すために、持ち込まれた各地の環境に適合していった結果が、今日の野菜達だということを想像してください。
それぞれの野菜に、旬は年に1回しかありません。料理をする人が、心豊かに自然を楽しんで、料理を作って頂きたい。

Q:どのようにすれば旬を理解することができますか。

それぞれの野菜の歴史を調べることで理解につながります。例えばトマトはどこから来たのか…原産地はアンデスの山岳地帯です。雨はほとんど降らず、日差しが強く、日中と夜の気温の差が大きい乾燥地帯ですから、日本とはだいぶ違った環境です。長い年月を経て今では世界各地に広がり、その地域に適合して仲間は8,000種類以上と言われます。原産地を離れて何千年経っても、生まれ故郷・アンデスの記憶はトマトの中にしっかり記憶されているのです。
日本でアンデスの環境に最も近くなる時期は、北海道を除くと、日差しが強くなって、高温多湿の梅雨になる前、つまり3~5月です。トマトの旬は一般に夏だと思われていますが、実は春が旬になるのです。

Q:旬を意識すること、あわせて選び方にもコツがあるのでしょうか。

形、大きさ、色、バランスなどから見分ける私なりの「やさいの見かた8カ条」があります。まるい形で、大きすぎないけどずっしり重いもの、葉の緑色が淡いもの、そして全体の形が左右均等でバランスが良いもの、軸が小さめで真ん中にあるものなどです。これら姿形から野菜達がどのように育ったのかが分かるのです。無理なく成長した旬の野菜は姿形が美しいのです。
例えば輪切りしたきゅうりの断面をよく見ると、外皮に沿って内側に管が並んでいるのが分かります。これは茎から根まで伸びて水や養分を運ぶ大切な役割を果たすもので、旬のきゅうりの断面は均等で円形です。生育に必要な栄養が、全体にバランスよく行きわたっているからなのです。逆に栄養の吸収が不均等なほどゆがんだ形です。
これらの条件全てを満たした野菜でなければいけない、ということではありませんが、自分で選択できる目を持つと、野菜選びが楽しくなります。

Q:学校給食に携わる人々に提言を。

ある栄養士の集会に呼ばれて参加者に聞いたところ、自分が食べる日常の食事は、栄養計算している人が一人もいないと知って驚きました。仕事で他人に提供する料理には、細かい栄養計算をきちんと行うのに、なぜ自らの食生活では行わないのでしょうか。プロならば、自分自身の食事にも、誇りを持った生活を送って頂きたいと思います。

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