正しい生活リズムが体力・学力の基本

家庭・地域に朝ごはん等の基本的生活習慣の大切さを呼びかける「早寝早起き朝ごはん」運動スタートから10年、また昨年は栄養教諭制度10周年でした。学校給食だけでなく広く「食育」を推進するうえで大きな意味を持つこれらの運動や制度ですが、教育行政の立場で両者に深く関わったのが、現国立青少年教育振興機構の田中壮一郎理事長。設立の背景や目的、今後への期待などについて聞きました。

田中壮一郎さんの顔写真田中壮一郎(タナカ ソウイチロウ)
国立青少年教育振興機構理事長。1949年香川県生まれ。東京大学法学部卒業後、文部省に入省。教育助成局教職員課長、学術国際局研究機関課長から、94年香川県教育委員会教育長。文部科学省スポーツ・青少年局長、生涯学習政策局長、文部科学審議官を経て、08年4月から現職。04年の栄養教諭制度の創設、06年の「教育基本法」の改正に携わり、「早寝早起き朝ごはん」運動の立ち上げ時の行政責任者でもある。「早寝早起き朝ごはん」全国協議会副会長。

Q:「早寝早起き朝ごはん」運動(以下、「同運動」)がスタートして10年です。

「同運動」を始めて現在までに、朝ごはんを食べる子供の割合が小学校で約88%、中学校で約84%に向上しました。それ以前と比較すると12~14ポイント増えています。また朝ごはんの定着だけでなく、夜更かしの改善にも役立っています。
2000年頃までは特に幼児の夜更しが増加傾向にあり、夜10時以降に寝る割合が2歳児で59%、3歳児52%、4歳児39%、5歳児40%でした。「同運動」を始めて、2010年の調査では、それぞれ35%、31%、26%、25%と顕著な改善がみられました。これは幼児を持つご家庭にも「同運動」の趣旨が浸透してきたからでしょう。

Q:学校教育だけでなく家庭も巻き込むことができた結果ですね。

最初からこれは国民運動として取り組みました。その背景には子供の体力低下の問題があったからです。
文科省は、子供の体力調査をオリンピックの1964年から毎年実施しており、75年頃までずっと向上していました。その後は横ばいだったのが、86年頃から下がりはじめました。それがTVゲーム・ファミコンが急速に普及した時期で、外に出て体を動かさなくなったことが要因とみられます。私がスポーツ・青少年局長になった03年も低下傾向が続いていたので、体力向上のために適切な栄養、睡眠、運動の3つをどのように定着させようか模索していました。
文科省が01年に実施した学力調査で、朝ごはんを食べる子の学力は高く、食べない子は低いとの結果で、03年の学力調査でも同じ結果でした。
また98年頃から社会問題化してきたのが学級崩壊。学校に入学してきたばかりの子供が、先生の話をじっと聞けなく徘徊する。また、切れやすい子の増加や問題行動が低年齢化している。今後教育を良くするためには、幼児期のしつけの段階からしっかり取り組むべきで、学校や教育関係者だけでなく家庭・地域も巻き込んだ国民的な運動を展開しなければ駄目だと思ったわけです。

Q:「同運動」設立の経緯を教えてください。

スポーツ・青少年局長から1年半後の04年7月に生涯学習政策局長に就任し、現行の教育基本法(06年12月公布施行)改正の担当になりました。これからの教育改革を進めていくためには社会全体で取り組む必要があるから、国民だれでも理解して頂けるような国民運動を提案できないだろうかと考えていました。その頃中教審の会議で陰山英男先生が、ご自分の学校で「早寝早起き朝ごはん」を実践したら体力も学力も上がったと発表されました。基本的な生活習慣を確立させることが、体力・学力の向上につながったと指摘されたのです。
私も「これだ」と思い、「早寝早起き朝ごはん」を国民運動として立ち上げるため、子供の生活習慣の確立に関する施策を06年度の概算要求に盛り込みました。

Q:家庭教育分野を事業化する発想は画期的でした。

局内でも省議でも、「文科省が"朝ごはん"に取り組む?」「家庭の問題ではないか!」と驚かれ、財務省の予算説明でも呆れられました。初めはみんなに驚かれたけど理由を聞くうちに理解されて06年に向けて新規として約1億3千万円の予算が付いたのです。
ただこの運動は、家庭や地域に主体的に取り組んでいただく課題であることから日本PTA全国協議会や全国学校栄養士協議会をはじめ教育関係団体のみならず企業等にも呼びかけ、彼らが連携協力して「早寝早起き朝ごはん」全国協議会を設立して下さいました。
そして最初の活動が06年4月、120万人の小学校新入学児童全員のご家庭に、「早寝早起き朝ごはん」のチラシを配布。そして、全国各地のPTA等が学校と一緒になって一生懸命取り組んでいただいています。

Q:早寝早起きにはどのような効果がありますか。

脳科学の分野でも「早寝早起き朝ごはん」が、子供の脳の発達において重要であることが判明しています。脳は睡眠中に昼間に修得した知識や経験を整理して蓄積しますが、早寝するとメラトニンという脳内物質の分泌が高まり、その働きを促進するそうです。特に幼児期は夜10時から朝2時までの4時間に良い睡眠をとることが、脳の活性化につながっていくと聞いています。
さらに、早起きして朝日を浴び軽い運動すると、セロトニンの分泌が促進されます。これが天然の抗うつ剤とか幸せ薬とも言われ、様々なことにポジティブに取り組むことが出来るそうです。
「早起きは三文の徳(得)」と昔から言われてきましたが、脳科学からも検証されたわけです。アメリカにもベンジャミン・フランクリンの「"Early to bed and early to rise makes a man healthy, wealthy, and wise"(早寝早起きは人間を豊かで賢くて健康にする)」という格言があるし、ヨーロッパにも「"The early bird catches the worm"(早起きした鳥は餌の虫にありつける)」という言い方が古くからあるそうです。

Q:今後の「同運動」の課題について。

今日までのところ、幼児・小学生の段階ではかなり定着したと思うのですが、中高生、それから今後はお父さん達に、もっと浸透できればと思います。中高生では特に早寝の習慣がまだ改善に至っていません。文科省の調査では中学3年生の就寝時間は24%が12時過ぎでした。
またお父さんにも、生活習慣の確立は大事だという理解を広げたいと思います。これには二重の意味があって、家庭でしっかりと子供さんを育てて頂きたいことと同時に、現代社会は働き盛り世代のうつ病が増えており、うつ病予防のためにもお父さん自身が健全な生活をしましょうということ。できれば、朝は早く起きていただき7時前後に家族一緒に朝ごはんを食べましょうと訴えたいです。

Q:栄養教諭制度も10周年を迎えました。

私は栄養教諭の制度を作った担当のスポーツ青少年局長でもありました。05年に食育基本法が成立したわけですが、食育はそれまで「食に関する指導」と言われ、一部には「食育」という言葉へのアレルギーがあったようでした。しかし「食育」は明治時代には、一般的に使われていたようです。食育、体育、知育、才育、徳育を合わせて五育とされ、「中でも食育は人間の基礎を作るもの」という意味のことを唱える学者もいたほどです。(「食養」石塚左玄)

Q:栄養教諭・学校栄養士への期待は。

栄養教諭や学校栄養士には特に3つの側面から期待があります。まず「ティーチャー」として授業の一環として「食育」をきちんと教えること。次に「カウンセラー」として相談役の機能。昨今はアレルギーの問題をはじめ過食・拒食・肥満など様々な課題があり、しかも個別の対応が必要で、子供との関係だけでなくご家庭との関係も重要になってくる。そして食育にしっかり取り組むためには学校で年間計画をたて、教育課程の中にきちんと位置づけて推進していく「コーディネーター」としての役割もまた欠かせません。皆さんには是非、がんばって頂きたいものです。

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