「食器を教材としての切り口に、奥深い“うつわ”と食育」

日本の伝統である「自然を尊重する」習わしから形成された"和食"。季節ごとの新鮮な食材と共に、うつわは和食に欠かせないもう一つの主役です。単に食事の道具として以上に食材や料理を引き立てる装飾美術の視点、道具でも命あるものとして大切に扱ってきた日本人の心を訪ねる道徳の視点、環境への負荷を考える視点など、うつわを教材として様々な角度からのプログラムを実践している「エコが見える学校」の海老原誠治さん。うつわを通した食育からは「必ず多くの教科とリンクできる」と提案します。

海老原誠治さんの顔写真海老原誠治(エビハラ セイジ)
三信化工株式会社営業開発部学校食文化担当。佐賀大学物理学科卒、宮尾正隆に作陶を師事。佐賀県立有田窯業大学校常勤講師を経て、現職。関東学院大学非常勤講師。月刊「学校給食」において連載中。

Q:うつわと食育の授業とはどのような内容でしょうか。

料理や素材に合わせて、盛りつける食器の形や大きさを選び配膳するのが、伝統的な日本の食事。お箸や器を持つことやその位置にも、合理的な理由がある。それが食事の所作として今に受け継がれているのです。食事の動作には意味がある、ただ面倒なルールではないことを理解してもらいます。
またお皿や茶碗には多様な文様、色柄があるのはなぜか。盛りつけするだけの道具ではなく、季節の移り変わりや折々の風物詩・行事が描かれた食器は、料理を食べはじめから空になるまで目を楽しませてくれます。低い位置にある食器は正座して手に持たなければ食べにくい。目線に近くなるにつれ、様々な表情・文様などが変化する様子にも自然に目が向きやすいのです。
これらの背景を捉えながら展開する「日本の食文化」の授業では、"いただきます"の意味、物を大切にして壊れても修繕しながら最後まで使い切ることに見られる、道具・資源・自然・様々な存在へ感謝の念を忘れなかった日本人の思いを伝えています。まだ他にも、角度を変えることで様々な教科との連携を図ることが出来ます。

Q:子供たちの反応はいかがですか。

小学校と連携して一汁三菜の給食を用意して頂く「和食器で食べる給食」の授業では、私の話の後にゴザを敷き詰めた教室で、全員で床に正座して和食給食を頂きました。正座で食事をした経験のある子は30人のクラスに1人だけであっても、思った以上にきちんと座って食べてくれて、「良い経験が出来た」「美味しく感じた」などの感想を聞かせてもらいました。
都内のある学校の授業で質問したところ、自分専用の食器を持っている子供が半数以下でした。子供と大人、男女によって違う手の大きさに合わせた箸や茶碗のサイズが選べる、自分の手に馴染む食器を選べるのは日本だけの食文化です。文化は時代の流れの中で淘汰されるものですが、残すべきは何かを整理していかなければいけないと実感しました。

Q:他にどのようなプログラムがありますか。

トレードオフの視点で環境の問題を考えるツールとして、食器の製造から廃棄までの各過程で発生するCO2を点数化して理解してもらう「食器のすごろく」が好評です。必ずメリットとデメリットが共存する3Rなどの現実的な問題を、楽しみながら学んでもらうために考案しました。例えば食器ですが、洗って何度も使え一般に環境にやさしいと思われますが、日々積み重なる洗浄の過程では水の供給と下水処理と通じCO2を大量に発生させます。また水が貴重な場面では、使い捨て食器の方がエコな場合も有ります。このように一側面だけで割り切れないことを、すごろく遊びから知ることができます。
小学校4年生以上の社会科とも連携する内容で、すごろくシートはホームページから自由にダウンロードできます。使い方の解説も掲載してあるので、イベントや単元のまとめなどの際に活用してください。

Q:食器を教材にしたプログラムは他にありますか。

図工・美術との連携で、食器の文様に注目したプログラムもあります。例として、代表的な唐草文様の意味や由来、伝来の歴史などのヒントを示しながら考えてもらいます。その背景に他の文化を尊重し、季節や風土などの自然に対する尊敬と畏怖の気持ちがあることを知ってもらい、各自が大切にしたい自然を伝統文様で表現します。
また小学校低学年を対象に展開した、学活と連携する「われたらパズル」は、体感からの気づきを目的にしたプログラムです。高い位置から落として割れた茶碗の、破片を集めて元の形に組み立てるという単純な内容ですが、ケガをしない破片の持ち方などを体感によって習得します。実践した学校の子供たちは「楽しかったけれど、お茶碗が割れてしまってかわいそうだった」という感想が多く聞かれ、「割らないように行動しようと思う」と生活改善にまで発展しました。

Q:給食は他の教科ともっと連携すべきですね。

連携できている先生はたくさんいます。ただ文化や環境の側面で、まだまだ可能性があると感じます。またICTやネットを使った調べ学習が増えるなか、給食は食育の"生きた教材"と言われる通り、食材や献立という実物があり、食べて体験できるところが強み。バーチャルな世界とは正反対の、実物から実感して確認できる世界であることを前提に、様々な角度からの連携が成り立つと思われます。給食と授業の連動でまだまだ多くの価値が期待出来ます。

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