食育キーパーソン

体験通して自ら考えさせる食育

食べ物を自分達で育てる、薪を燃やして調理する、その過程に与えられた課題を自分達で考えながら解決していく「月例事業」を実施している公益財団法人国際青少年研修協会(KSKK)。「食育」と「防災」をテーマに非日常体験を重視した同プログラムを推進する同協会理事・髙田裕之さんは、体験を通じて「食を育てる」食育を目指すと語る。

田中延子(タナカ ノブコ)

髙田裕之(タカダ ヒロユキ)

1957年生まれ、千葉県出身。1984年から10年間、旅行会社に勤務。1994年、公益財団法人国際青少年研修協会に勤務し現在に至る。青少年を対象にした国内外の国際交流活動や野外活動を企画運営すると同時に引率指導者として様々な事業に参加。海外からの青少年受け入れも手掛け、国内での国際交流活動も積極的に行う。さらに青年指導者の育成にも尽力。2004年に事務局長に就任。現在、同協会理事。

Q:KSKKと食育等の月例事業について教えてください。

KSKKは1978年10月設立で、青少年の健全育成を目的に国内外で様々な事業を展開しています。体験を通して、自分からチャレンジし積極的に行動する力を身につけること、新しい仲間と集う中でのコミュニケーション力と協力する協調性を養うことが主な目的。年間30~40の事業を実施し、年間約500人、設立からの延べで約2万8000人の参加者数になります。

「食育」や「防災」をテーマにした月例事業はその一環に位置づけています。日帰りから1泊2日のプログラムで非日常的な体験を舞台に、様々な課題を設定し、どう解決していくかを子ども達に考えさせます。

Q:KSKKが目指す食育とは何でしょうか。

人間は食べなければ生きられない、食べることがいかに重要であるかを伝えたい。食を得るためにどうしなければならないかを体得してほしいと願っています。
食育にはいろいろなアプローチがあって良いと思います。私達が考える食育とは「食を育てる」こと。自らの手で食べるものを育てる体験から、食材をどのようにして作り、手に入れられるのかを学ばせています。

Q:具体的にはどのような体験内容でしょうか。

土に触れる、泥んこになる機会がとても少なく滅菌された環境の中で子ども達は育っているので、田植え・稲刈りを20年近く実施してきました。でも米作り体験は取り組む学校も多いことから、学校とは別の角度から私達に出来る食体験をさせたいと考えました。田植えでお世話になった農家さんがナシ作りをされていたご縁で、近年はナシを題材にした食育に取り組んでいます。
受粉(4月)、摘果(6月)、収穫(9月)と年間3回シリーズの企画です。今年はコロナ禍で4、6月の活動は出来ず、9月になってやっと日帰りで実施できました。
例年なら各回1泊2日で、4月に定員20人を3、4班に分け、班ごとに自分達のナシの木を持たせます。「これが君達の木だから、この木を育てるんだよ」と説明し、名前を決めさせネームプレートを付けます。
4月には座学で、ナシがどのように生長し実が成るか、ナシの起源、ナシ園では人為的に手が届く高さに低くしていること、受粉は同じ品種ではしない違う品種で掛け合わせるほうが品質の良いナシができることなど、農家さんに話をしてもらいます。

Q:食育にも非日常的な体験を取り入れているのですね。

6月にはナシの木の下で寝てみようと、ブルーシートを敷いて寝袋で、自分達のナシの木の下で一晩寝るという野宿体験をします。本当にこの木を自分達で育てるのだという意識付けになります。
また1泊2日の中で毎回必ず火を起こして野外炊飯をさせます。主食(ご飯)、汁物は私達が用意し、メインの主菜を班ごとに考えさせます。決まったら材料と人数分の分量を考え、買い物も自分達で。もちろん何でもよいわけでなく予算内で済ませることが課題です。

Q:食育について、体験活動の視点からアプローチしていることが特長ですね

11、1月には「防災」をテーマに災害時の食事を考えさせる企画を予定しています。災害で食器や調理用具をほとんど失って、水や食材も限られているという状況で、食事をどうやって作って食べるかを考えさせます。アルミ箔、ポリ袋等々、身近にある物を応用(代用)することで解決出来ることを体験させます。

Q:なぜ体験を重視するのですか。

月例事業の食育体験でも同じことが言えるのですが、子ども達はほとんどマッチを使ったこともない。どうしたら薪に火がつくか、どうしたら火が大きくなるか……「火の育て方」と言っていますが、安全な道具の扱い方の手本を見せながら説明し、薪を組ませて火をつける前に何が必要か、どうすれば火は燃えるのかを問いかけながら考えさせます。
災害時等の避難所生活では、お年寄りの生活の知恵が役だったとよく聞きます。今のように物があふれる時代ではなく、自分で調達しなければならなかった暮らしを知るお年寄りが身につけた体験が、イザという時の生きる力になるのだと思います。