栄養士コラム

第168回「卒業式で語られた給食の思い出」

本橋由江

宮城県立支援学校岩沼高等学園 栄養教諭

本橋由江

「ママ、今日の給食は何?」、「おっかぁ、今日のデザートも、おかわりよろしく!」……職員の朝の打合せ後、教室を巡回していると生徒が私の顔を見るなり駆け寄りこんな声をかけてくれます。現在の勤務校である寄宿舎設置の高等支援学校では、3食分の献立を提供しているため、栄養教諭は「学校の母」というイメージが強いのでしょう。軽度知的障害があり、様々なことにこだわりを持つ生徒の食の課題を解決するべく奮闘中です。

無力感で落ち込む日も

「食の経験値の差がありすぎる」。この学校に勤務するようになってからというもの、毎年度その差が大きくなっていると感じる生徒の食の実態です。家庭環境が様々とはいえ、食品の名前を知らない、毎日同じ食品が食卓にあがる、「白米と肉しか食べたことがありません」と、子どもの偏食を当然のように話す保護者。
味覚の発達は12歳までと言われている中、15歳で入学してくる生徒の味覚や、正しい食生活を構築し直すのは容易ではありません。筋金入りの偏食がある生徒は、給食3年間、舎食1年間を毎日食しても、結局入学前と変わらない食生活に戻ってしまう場合もあり、「私はこの学校で何かできているのか。この職を選択して正解だったのか」と、栄養教諭になってから10数年を経た今でも、思い悩み、落ち込む日が年に数回訪れます。

答辞で「給食が元気の源」

3月1週目の土曜日、卒業式が挙行されました。前年度3学年部所属だった私は前方の席に参列、卒業生を間近で感じ、感動も一入でした。すると式の後半、前生徒会長の答辞で「初めての学校生活、寄宿舎生活で不安になることもありましたが、毎日の給食舎食が本当においしくて、元気の源になりました」と、給食舎食のことが登場したのです。今までの式はもちろん、答辞で給食が話題になったことなどなかったため驚いてしまい、式終了後は涙腺が崩壊し、担任の先生方以上に涙してしまいました。

食の関心が高かった学年

思えば、この学年は献立のリクエストが多く、食に関する授業でも積極的に質問したり、委員会活動は率先して建設的な意見を出してくれたりして、入学当初から食に関心が高く、私を母と呼ぶようになったのも彼らで、「由江先生が作ってくれる給食だから」と、苦手なものでも一口は食べる、食前食後のあいさつや調理員さんに感謝するなど、他学年にもよい影響を与えてくれました。

原点を忘れず諦めず

私たち栄養教諭を取り巻く環境も日々変化し、複雑化・多様化しています。特に養護教諭等の他職員と連携した個別指導や、ICTを活用した効果的な食に関する指導を求められ、多忙を極めていますが、「給食がおいしくなければ何の説得力もない」という先輩からの助言と、教材となり得る給食の提供という私たちの原点を忘れず、そして諦めることなく人間力を磨きながら、新年度の出会いを大切に、食育を進めていきたいと思います。
<(公社)全国学校栄養士協議会 副会長>