食育キーパーソン

料理は子どもの人間力を伸ばす

幼児を対象に、料理作りを通した人間力の育成を目指す教室の「リトルシェフクッキング」(LCC)を主宰する武田昌美さんは「料理に正解はない」「失敗は成功の一歩前」が持論。自己肯定感や挑戦する意欲、想像力と創造力など、これから子ども達に求められる力を育てるツールとして料理は最適だと考え、「EduCooking」を提唱しています。

長島美保子(ナガシマ ミホコ)

武田昌美(タケダ マサミ)

リトルシェフクッキング株式会社代表取締役、子ども料理研究家。料理を通じて子どもの才能を開花させ、挑戦する勇気・失敗への前向きな姿勢を養うことを目的とする料理教室「リトルシェフクッキング」を経営。2歳から19歳まで、のべ3000人以上の子どもに料理の楽しさを教えている。

Q:リトルシェフクッキングの理念はご自身の原体験にあったのでしょうか。

料理好きの父から豚肉料理には酸っぱいものが合うとか、料理の方程式のようなものをいっぱい習い、家族みんな料理が好きになりました。お陰でよく食べて健康で、料理を自分の得意分野としてきました。
また父はフランスで料理修行、母はオーストラリアでワーキングホリデイの経験を持ち、両親とも長く海外にいたおかげで「自己肯定感」ということを意識し私を育ててくれたのだと、今になって分かります。さらに順位や偏差値や通知表のない桐朋学園で12年間過ごしました。他人と比べることがない、ということが自分の糧になっていると思います。

Q:「EduCooking」とはどのような意味でしょうか。

EduCookingとは、料理を通じて子どもの生きる力を培うことです。また、料理は何をいつ作るか、子どもでもゴール設定ができます。料理ができる子は、設定もしっかりできているものだなと感じます。幼児期からゴール設定や、先を見越した準備をしっかりするのは難しいことですが、大人になった時には必須の条件でもあるのです。子ども達は料理が大好きで、その大好きな料理をツールに使って学びをもっと楽しく、ということがモットーです。

Q:リトルシェフクッキングは幼児が対象なのはなぜでしょうか。

対象は2歳~8歳ですが、その時期だからこそ、習ったことは将来その子自身の生きる力に直結します。リトルシェフクッキングは料理を教えることだけが一番の目的ではなく、料理をツールとして、将来必ず求められる自信、挑戦する勇気、想像・創造力、コミュニケーション力といった「人間力」を養うことを大切に考えるためです。
子どもたちとは、料理を始めるにあたって<3つの約束>をします。
<失敗は成功の一歩前> 失敗は成功のもとだからです。
<先生の話をよく聞くと上手にできる> 幼児には「聴く力」が最も大切だと思うので、「聞いて聞いて」と向かせるより「先生の話をよく聞くと上手に作れるんだよ」と言うと、聞き漏らさないよう聞くので集中してくれます。
<自分で挑戦する勇気を持ってみよう> 失敗してもOKだから、パパママに「助けて」と言わず最後まで自分でやってみよう。失敗を恐れず挑戦してほしいのです。

Q:どのような料理を作るのですか。

今月(取材時は3月)は「いちごのロールケーキ」、5月は子どもの日に合わせた「こいのぼり形ピザ」など、月替わりにしています。1回最大6人の少人数制で、余裕を持たせた子ども時間で進められるよう工夫して、オリジナルレシピを毎回開発しています。
幼児さんでも刃物や火も使います。リトルシェフクッキングは始めて5年、累計約3000人が参加しましたが、これまでケガ、やけどなどの事故は全くありません。1個のレシピに集中して作って楽しめることを大事にしているので、注意をよく聞いているからでしょう。

Q:「EduCooking」らしさとはどのような場面ですか。

毎回、導入に「ハカセジカン」を設定します。今回は「いちご博士になろう」という映像を使い、「いちごってどんな花かな?」「実が成るのはいつだと思う?」と対話しながら、今から使う食材についてもっとワクワクする学びの時間です。10分位ですが、親が驚くほどみんな集中して聞いてくれます。
製作途中にも考えさせる「学びの種まき」を随所に織り込んでいます。例えば、粉を混ぜる時に使うザルは底を濡らしてしまうと目詰まりしますが、「どうなると思う?」と想像させる質問を投げかけます。
また料理には焼き時間、冷やし時間があるので、待つ間の10分15分でできる「造形」を入れています。今回は「いちご」を新聞紙と色紙とモールで作ります。幼児教育なので知育として取り入れています。

Q:教材レシピについてどの様な工夫をしていますか。

子ども用レシピは子ども達が目で見てわかること、自分の家で何度も再現できることを大事にして、自分でイラストを描いています。ここで作ってお終いではなく、家でも挑戦して欲しいのです。
ご家庭でチャレンジする際には、保護者の皆さんには、材料を用意したらその後は一人で自由にやらせてください、失敗してもOKです、何度かやれば思い出します、とお願いしています。失敗から学ぶことはたくさんあります。