食育キーパーソン

とうふづくりは地産地消の楽しい教材です

「身土不二」、「医食同源」など環境と食物と身体の関係を現わす言葉は、環境と食の深い関係を伝えていると言うSOE代表理事・寺田茂さん。独自の環境学習プログラムを作成し、学校等の要請で出前授業を実施。その一つにとうふや味噌作りがある。「大豆は2000年前の遺跡からも発見され、私たち日本人の命を支えてきた優れた食材。とうふは自分の手で、作る体験をすることの意味が大きいのです」。大豆を使ったとうふや味噌を作る体験を通して子ども達に、食料自給と地球温暖化問題にまで思いをはせて欲しいと願っている。

寺田茂(てらだ しげる)

寺田茂(てらだ しげる)

特定非営利活動法人センスオブアース・市民による自然共生パンゲア(以下、SOE)理事長。東京都八王子市出身。都内公立小学校の教員・校長として40年近く勤務。校長、教育相談部長を務めた板橋区内の小学校では、ビオトープ作りを通じた環境教育などに力を注ぎ、2002年全国学校ビオトープコンクール会長賞などを受賞。教職退職後の2004年、環境教育の普及を目指してSOEを立ち上げ、理事長として現在に至る。2005年地球温暖化防止活動で環境大臣表彰受賞団体、2007年要請を受けた板橋区内の小学校で初めてとうふづくりに取り組んだ。食と暮らしを含む全プログラムの受講者数はおよそ3万人に及ぶ。著作に『学校ほど愉快なところはない』(驢馬出版)など。

Q:SOEの活動はどのようなきっかけから始められたのでしょうか。

1990年代にドイツから紹介されたビオトープに注目し、校長を務めていた板橋区内の小学校に作り、子ども達の環境学習の活きた教材としました。子ども達には自分の命を見つめる体験をさせたい、という思いがあったからです。 70~80年代、学校が校内暴力で荒れた時期があり、カウンセリングや教育相談を研究して「子どもの良い面を引き出すため何が出来るか」模索。やがて「黒板とチョークの授業で子ども達を変えるのは限界がある」、「学校内に地域の自然を作り出し、日々、命にふれあう環境にしよう」と考えました。私に出来ることは、都会でもバッタやカエル、草花など子供たちがさまざまな命に触れられる環境を作ることだと考え、ビオトープを作ることにしたのです。 SOEは2004年、教職を辞してから設立。校長時代は自校の子ども達のための取組でしたが、NPOにしたことで他校・地域のどの子にも、自分と他の命を見つめる活動を行えるようになりました。

Q:出前授業にはどのようなプログラムがありますか。

SOEの名はセンスオブアースの略称で、世界で初めて環境問題を取り上げたアメリカの生物学者、レイチェル・カーソンの著書『The Sense of Wonder』が由来。21世紀の環境悪化の速度を緩やかにし、さらにそれを止める方法を自分たちの生活の土台から見直せる世代であるという、子ども達への願いを込めています。 小学校低学年には、生活科で近所の公園で活動する「季節の自然で遊ぼう」、3年・理科では自然観察をする「そっとのぞいてみてみよう」、中・高学年の道徳で「学校の木を決めよう」など、季節や学年に応じられるよう様々な自然体験プログラムがあります。 他にも小学校から中学校までを対象にした「エネルギー教育プログラム」(地球環境問題分野)、小学校中学年以上中学校まで対象になる「食と暮らしのプログラム」(循環型社会分野)などです。

Q:「食と暮らし」でとうふ作り、味噌作りを取り入れたのはなぜですか。

SOEを立ち上げた20年前、ゼロからプログラム作りを始めた中で、大豆の秘められた価値を初めて知りました。高い栄養価、低いコレステロール、化粧品が作られるほど人体への優しさ、今では世界が認めるスーパー・フードです。江戸時代はどこの農家でも、畑やあぜ道で大豆を育て、各家庭が食べるとうふ、味噌、醤油、納豆等は自分たちで作っていた。そこから「手前味噌」という言葉ができたのです。 江戸時代は鎖国していたため究極の地産地消でした。地産地消の生活を子ども達に教えたいと考え、大豆はそのための教材として身近で適切だったのです。今も身近なとうふ、味噌などは大豆の加工食品ですが、工場でなくても自分たちで作れることを体験から知ってもらいたいのです。

Q:とうふ、味噌作りの授業はどのような内容ですか。

授業の導入では大豆に関するクイズや映像を見せ、大豆の生育や収穫などについて学習します。日本では様々な形の食品として古くから身近にあったこと、大豆のすごさを知ってほしいと思います。とうふづくりはまず大豆をミキサーにかけて生呉作り、豆乳を絞り、にがりを加えて固めるまで一通りの工程を体験、試食もしてもらいます。子ども達は「固まるかドキドキしながら見ていた」「いつもたべているとうふより少し甘かった」など色々な感想を語ってくれます。味噌作りも大豆をすりつぶし、塩麹を混ぜ、たるに仕込むまで体験。発酵時間が必要なので私達が前年に仕込んだ味噌を試食してもらいます。 とうふや味噌作りには火や刃物を使うので、安全のため1グループに1人程度の補助者を付けます。補助者は環境学習ボランティアの方達で、学生・保護者が中心。最近はゼミ生が実習の一環で参加する事例も多くあります。

Q:とうふ・味噌作りの体験から伝えたいことは何ですか。

「今日、納豆を食べてきた人は」と聞いて手が上がるのは、最近はクラスで大体3、4人程度です。納豆の原料の大豆は、今日のように肉が食べられなかった時代の日本人には貴重なタンパク源となった素晴らしい食品です。世界80億人がもし牛・豚等を食べなければ水資源保護や温暖化ガス削減につながるとされ、大豆はその代替食品になります。そのことに世界中が気づき、大豆が注目される動きが始まっています。 一方で日本の大豆の国内自給率は消費量のわずか約6~7%。国内消費が年々減少したため比例して生産量が下がり、大量生産の安価な輸入大豆に代わられたためです。このままで日本の食料事情は大丈夫でしょうか。優れた大豆の特性を伝えることで、日本の素晴らしい食卓の原点を見直すことにつなげたいですね。