栄養士コラム

第163回「あのおいしい野菜のやつだ!!」

池上鉄矢

埼玉県ふじみ野市あおぞら学校給食センター 栄養教諭

池上鉄矢

給食前、廊下を歩いていると2年生の女の子に「今日の給食はなに?」と声をかけられました。「沢煮椀だよ!」と返すと「あのおいしい野菜のやつだ!!」とご機嫌で教室の方へ。その姿を見て「調理員さんたちのこだわりを良く分かってくれている」と嬉しくなりました。

現場を実際に見て伝わる説得力

今年、4年ぶりに保護者対象の「給食試食会」と「給食センターの見学」が実施されました。 保護者には給食センターの2階にある見学通路から、30分程度調理の様子を見学してもらいました。初めて見学する保護者も多く、野菜の量や、調理員さんたちの連携のとれた動きなどに目を輝かせながら作業を見入り、感想を言い合っていました。コロナ禍では、DVDなどで給食の調理の様子などを見せ、説明したこともありましたが、やはり実際に給食を作っている給食センターを見学し、直接給食を食べてもらう事は、DVDの視聴に比べると説得力は全く違いました。

「減塩」は調理員の腕と手間が不可欠

給食センターの現状として、かけられる手間には限界があります。そんな中でも、料理の基礎となる「出汁」は当センターの自慢です。保護者に、和風出汁は「昆布」「かつお節」から引く事、スープは「ガラパック」と「香味野菜」を1時間以上煮出して取っている事を見学の際に伝えると、とても驚いていました。試食の際「スープは薄味でしたが、お出汁をしっかりと取ってくださっているから、とても美味しかった」と感想がありました。 既製品の使用頻度が高くなりがちな給食センターで、学校給食摂取基準の塩分相当量での給食提供は大きな課題です。出汁の効いた「沢煮椀」の塩分濃度は0.5~0.6%。出汁を上手に活用できれば「減塩」にもつながりますが、それには調理員さんの腕と手間が欠かせないと改めて感じました。

作る人と食べる人をつなげる

給食センターの見学は児童にも人気です。見学した後は、教室に給食センターで使うスパテラやひしゃく等の道具を実際に持ち込みながら、給食を作る様子のDVDを見せました。野菜を3回洗う様子や、フライヤーでの揚げ物など、見学中に見ることのできなかった作業に目を輝かせながら映像を見ていました。作る過程を見てもらう事で、給食がより身近になり、残さず食べようと意欲が湧いてきます。その意欲が給食への興味・関心となり、残食量に関わってくるのです。 健康的でおいしく安全な給食を提供し、なおかつ「残食」を減らす。難しい挑戦はまだまだ続きます。