和食文化の保護・継承には幼少期からの体験が有効
平成28年11月24日、全国約3千校・園、80万人が参加した今回の「だしで味わう和食の日」(以下、「和食の日」)が終了。たくさんの子どもたちが学校給食を通して本物の「だし」のおいしさを体験する全国一斉の取組でした。しかし「目標だった数値目標には届かなかった」と厳しく分析するのは、主催した和食文化国民会議(以下「和食会議」)の田島寛さん。和食文化の保護・継承を目的に設立された和食会議は、その主旨の実現には、子どもたちに早期からの和食体験が効果的だと語ります。
田島寛(タジマ ヒロシ)
一般社団法人和食国民会議常務理事。昭和31年・埼玉県生まれ。53年大学卒業と同時にキッコーマン(株)入社。63年シンガポール駐在員事務所長。その後現地法人の開設により東南アジア地域マーケティング・ディレクター。平成7年本社プロダクト・マネージャー室。12年より国内営業責任者。23年本社プロダクト・マネージャー室でメニュー開発グループ長。27年8月より現職。
Q:和食がユネスコ無形文化遺産に登録されて3年になります。
平成25年12月4日、ユネスコ第8回無形文化遺産保護条約政府間委員会で決定しました。正確には「和食:日本人の伝統的な食文化」。“すし”や“懐石料理”といった個別の料理を指すのではなく、自然や年中行事などと深く結びついた日本の食文化としての和食全体を指すものです。当初は誤って理解された部分もありましたが、最近は正しい理解が定着しつつあります。学校の食育などでも栄養教諭・学校栄養士の方々の指導が適切に行われているようです。 和食会議の前身は、ユネスコ登録を目指して23年に民学官で発足した検討会です。25年7月に事務局を設置、名称を「『和食』文化の保護・継承国民会議」とし、その年12月にユネスコ登録が決定。27年2月に現在の「一般社団法人和食文化国民会議」(熊倉功夫会長)として法人化しました。
当初から「和食」の保護・継承を第一の目的として掲げ、和食に関する全国の情報収集と発信、継承事業などの活動を行っています。ユネスコへの報告義務など、民間でありながら「和食」の保護・継承の責任を公的に担う団体です。
Q:「日本人の伝統的な食文化」とは?
和食会議が定義するのは、「自然を尊重する」我が国の伝統を土台とした「食に関する習わし」です。
さらには「多様で新鮮な食材とその持ち味を尊重」「健康的な食生活を支える栄養バランス」「自然の美しさや季節の移ろいの表現」「正月などの年中行事との密接な関わり」という4つの特徴を持っています。
Q:「和食の日」のねらいは?
27年からの取組で、11月24日「和食の日」を中心に、全国の小・中学校で汁ものなど「だし」のうま味をいかした献立の学校給食を実施していただく。その時、だしはできるだけ地域に受け継がれている天然素材からとったもので、「すまし汁」や「茶碗蒸し」のようなだしのうま味が強く感じられる献立を推奨しています。その体験が子どもたちに和食の要となる「だし」への興味や、和食への理解を深めるきっかけになることを期待しています。
食育や給食の時間には、各学級担任の先生が子どもたちに分かりやすく和食やだしについて説明してくださるよう、先生向けの資料と子ども向けの教材を用意しました。特に子供向けの教材は、給食や授業で使ったら家庭に持ち帰ってほしいのです。最近はだしを一からとるご家庭は少なくなっているので、裏面にはご家庭で出来るだしのとり方、だしを使った料理のレシピを紹介しています。ご家族と一緒にこれを読んで話題にしてもらいたい。さらに一緒に作ったり食ることまで体験してもらうことが望ましいですね。
Q:2年目の今年度、成果はいかがでしょうか。
第1回の27年度の学校参加状況は約2千校・50万人。地域では31都道府県から参加がありました。今回はさらに早期からの体験が望ましいとの考えから対象を幼稚園・保育園にまで拡げ、約3千校・園から80万人が参加。県数は9県増えて40都道府県に拡大しました。
参加がなかった県についても検証しているところです。不参加理由の一つには「和食の日」だけではなく普段から給食に和食を取り入れているから、という実態があることも分かりました。それは地域性として尊重したいと思います。
Q:1.5倍増ですがその理由は何でしょうか。
今回は市区町村や給食センターごとに参加校をまとめて申込まれた地域には、児童・生徒の人数分の教材を印刷してお届けすることにしました。前回はそれぞれの参加校が和食会議のホームページから教材をダウンロードし、各自で必要数をコピーすることで対応して頂いたのです。教材はA4サイズ両面2頁ですが、和食とだしに関する内容ですからカラーでないと違和感があります。しかし何百枚になると手間も印刷代もかかるという指摘を頂戴しました。
そのため、A4サイズからポスターサイズに引き伸ばして教室や校内に掲示したり、給食中の校内放送で読み上げたという報告もあり、学校も苦心して工夫されたようでした。今回は印刷や配送の予算を確保して、教材としてより利用しやすく準備したのです。その結果全体の約9割の子どもたちに教材を届けることができました。
Q:自治体によって差があるようですね。
参加校がゼロだった県が今回でもまだ7県ありました。その一方で県内全ての小中学校が参加した福井県のような例もあります。さらに市区町村でみると、京都市やいわき市、伊達市が市内の全校で参加、東京都でも新宿区と豊島区がやはり区内全校参加されました。このような例はまだ点として散在している段階ですが、今後はこれらの地域を拡大して、点から面に広げていかなければなりません。
「和食の日」をきっかけとして、和食への理解を学校から子どもたちへ、子どもの家庭から地域社会へ、最終的には日本の国全体へと浸透していくことが私たちの役割であり願いです。