食育キーパーソン

適正な食で細胞を元気に

人間の自然治癒力を引き出す「分子栄養学」に基づいた栄養療法アドバイザーとして活躍する星谷みよ子さんは、私たちの「細胞を元気にする」食事を提案しています。そのため食事や栄養についての正しい情報が大切で、そこに関わる「食育」やマスコミの役割は重要。同時に伝える側の認識不足やコミュニケーション不足にも警鐘を鳴らしています。

星谷みよ子(ナガシマ ミホコ)

星谷みよ子(ホシヤ ミヨコ)

一般社団法人ファミリード代表。静岡県出身。製薬会社等の勤務を経て栄養療法アドバイザーとして活動。小学校のPTAで「家庭教育学級」を担当したことから保護者の学びの場の活性化を図ろうと、一般社団法人ファミリードを設立。分子栄養学に基づいた栄養学の講演をはじめ、お金の教育、コミュニケーション等バラエティ豊かな講師陣で家庭教育学級の活動を支援している。

Q:ファミリード設立の目的を教えてください。

我が子の小学校入学で、PTA活動の「家庭教育学級」を担当した経験が元です。講師探しや講座開催の負荷が高く、行政から補助金が出ているにもかかわらず、どちらかといえば消極的に運用されているところがもったいないなと感じたのです。担当者同士が話し合いながら一種のコミュニティをつくり、実施に向けて手探りしながら行動していくプロセスが貴重なのだということも理解しました。保護者の学びの場が家庭教育学級なのです。実際、終わってみると皆「やって良かった」という高揚感で顔を赤らめて見つめ合う場面を何度も見ました。PTA活動が否定的に捉えられる中、これは継続する価値があると思いました。
社会の変化のスピードは年々加速し、子どもたちの人材育成という側面でも家庭教育の課題は増え続けています。そこに危機感をもち保護者に訴える方を家庭教育学級の講師として紹介することが主な目的です。私の専門の栄養学に関する講演ばかりでなくフィナンシャル、親業、環境問題、コミュニケーション術など幅広いテーマの専門家が揃っています。

Q:どのように活動をされていますか。

2020年6月の設立で、最初の緊急事態宣言が発令された後、コロナ禍の真っ最中でした。当初からPTA活動のオンライン化を提案していました。3密回避はもちろん、会場設営不要、(講師)交通費不要、気づかい不要などオンラインによるメリットはたくさんあります。
先ごろ(2021年5月)2日間にわたって実施した、家庭教育学級等の保護者向け講座を企画するPTA役員・委員のためのオンラインミニ講座は、約20講座に全国から100人を超す方が参加されました。

Q:講演する分子栄養学とはどのようなものでしょうか。

食事を基本とした栄養療法で、「栄養素によって細胞を元気にする〝医学〟」であると言われます。病気にかかって薬を飲む対処療法に対して分子栄養学では、「自分の体は自分で守る」ことが基本だと考えます。病気や不定愁訴は細胞の乱れから始まると考えるため、細胞はどのように働くのかに注目します。例えばがんや糖尿病など生活習慣病にかかりにくい食生活や心のあり方を考え、個々の身体にあった栄養を利用した療法、いわばオーダーメイド医療とも呼ばれます。

Q:栄養学とはどのように違うのですか。

例えばビタミンCについて、「日本人の食事摂取基準」(厚労省)では1日当り摂取量は成人で100mgとされています。これは壊血病予防等の観点から定められたものです。しかし感染症では1日3,000mg、がん治療されている方には1日50,000mgを点滴するなど必要量が桁違い。このように栄養素を薬のように使う、でも体への負担は少ないのが分子栄養学です。
身体が健康である状態に対して、体調不良や病気になるいくつかの原因のうち、細胞の機能低下があります。そこで細胞機能を適正化させようと考えます。そのため食事から摂取する栄養は大きな部分を占めます。

Q:保護者に伝えたい栄養と食事の知識は。

栄養療法では、特にたんぱく質を重視して考えます。筋肉、血液から内臓等、人の身体から水分を除いて残り約半分以上はたんぱく質が占めています。たんぱく質が不足すると様々な不調、病気につながるのです。
一般の栄養指導や食育の場でもこのことは伝えられているでしょう。例えば体重60kgの成人に必要なたんぱく質の基準量は1日60g。成長期の子どもやアスリートにはその1.5倍で90g必要です。

しかし大切なのは食材の重量ではなく栄養素の質量であること。1回の食事で牛肉100gを食べたらそれで1日分が足りると考えるのは誤解です。100gの牛肉には水分やその他の栄養素があり、調理時に失われるものも計算すると、牛肉100gに含まれるたんぱく質は約15gにも達せず、これだけでは必要な量に届かないのです。逆に牛肉だけで満たそうとしたら400gも必要で、普通には食べきれない量ですし、単品での摂取は良くありません。ですから、家庭でのおやつにもたんぱく質を用意してほしいぐらいです。糖質も糖分も摂り過ぎの方が多いと感じています。

Q:食べ物を選択する力が大切ですね。

肉以外にも魚、たまご、乳製品、大豆等のたんぱく質を豊富に含む多彩な食材から摂取することが大切なのです。でも大量にあふれている健康や料理の情報の中で、このことをきちんと伝えられていないのではないかと危惧しています。どんなに体に良いとされる食材でも、それだけを毎日、過剰に摂取することは、アレルギーを防ぐためにも避けるべきです。
栄養の吸収は腸にあります。腸の吸収を大事にする考えから、子どもから大人まで食事に食物繊維が足りていないように思えます。食物繊維は腸を労わるもので、腸内で消化吸収の働きをする乳酸菌など善玉菌を養うエサとなるものです。野菜やキノコ類、海藻類、こんにゃくなど水溶性食物繊維をもっとたくさん食べましょう。

Q:学校給食や食育についての感想は。

学校給食は色々な意味で見本になるものだと思います。一般には「給食で出しているから問題ない」と受け止められます。それだけに常に情報のアンテナを高く掲げ、安心でおいしい給食の提供をお願いしたいと思います。

我が子は小学校から学校給食のお世話になっており、毎日楽しみにしているようです。限られた予算で大量に調理される皆様のご苦労は想像を絶しますが、働く保護者にとっては頼りになる味方です。今後も引き続きよろしくお願い致します。