食育キーパーソン

子どもが自分で作るお弁当には学びが詰まっています

鶏そぼろ弁当や中華丼など、初心者でもできて見栄えがするお弁当作りの手順や詰め方のコツ、食中毒予防の基礎知識などをコンパクトにまとめたリーフレット「お弁当を作ろう!」を、東京・足立区の区立中学校の3年生全員に卒業祝いとして配布した日本キャラベニスト協会代表理事の沼端恵美子さん。そこには「お弁当作りを楽しんで」、「お弁当を作ることで学ぶことはたくさんある」というメッセージが込められていると言う。

沼端恵美子(ヌマハタ エミコ)

沼端恵美子(ヌマハタ エミコ)

一般社団法人日本キャラベニスト協会代表理事、All Aboutキャラ弁ガイド、お弁当アドバイザー
1979年生まれ。東京家政大学短期大学部卒業。2015年一般社団法人日本キャラベニスト協会を設立。一般財団法人生涯学習開発財団認定「お弁当学マスター認定講座」を運営。お弁当作りはコツがわかるとバリエーションも増え、楽しくできるようになることを伝える「お弁当教室ラ*シード」を主宰。カルチャーセンターや学校、飲食店や、イベント等でお弁当やキャラ弁の教室を開催する。2022年1月に『中高生が自分で作るお弁当』(TRY-X)を出版。

Q:どの様なきっかけから日本キャラベニスト協会を設立したのですか。

我が子が小学生の時、遠足に持っていくお弁当を「キャラ弁」にしてほしいとリクエストされたのですが、その当時の私は、お弁当作りが得意ではありませんでした。学生時代も自分でお弁当を作っていましたが、貧相なお弁当が恥ずかしくふたで隠して食べていた思い出も苦い経験でした。そこで色々と本や雑誌を読み、料理教室に参加するなどして情報を収集・研究し、自分なりに勉強を続けました。
手作りのお弁当には食事としての理想の栄養バランスがあり、時間が経ってから食べることを考慮した食中毒の予防法、縁高の容器に数種類のおかずを一緒に詰める方法など、コツがあることを知り自分が知らなかった内容をわかりやすくまとめて伝えたいと考えました。
お弁当作りに限らず、お母さんだからといってお料理が得意な人たちばかりではないし、仕事を持って日々忙しくしている方もいる。以前の私がそうだったように義務感から作っていたとしたら、お弁当作りが楽しいとは思えなかったものです。
でも試行錯誤して喜んでもらえるように…と作ったお弁当は気持ちが伝わり、家族の絆を深めます。お弁当に、旬の食材や歳時に合わせた料理など季節感や願いを込めることで「お弁当作りはもっと楽しくなる」ことを伝えたくて本協会を設立し、認定講座を開始しました。

Q:「日本の食文化」としてのお弁当の特徴は何でしょうか。

日本のお弁当の基本形と言えるものは、一つの容器に主食と色々な味のおかずが複数種類入り常温で食べることです。欧米や各国にもランチボックス等がありますし、日本と同じ米飯を主食とするアジアの国々には日本のお弁当に近いものもあるのですが、温めずに常温で食べることを前提に作られているのが日本のお弁当の特徴ではないでしょうか。
そのため味付けや見栄えの工夫、腐敗防止のための調理法、詰め方などが歴史的に受け継がれ、今日に至っていると考えられます。

Q:講座名の「お弁当学」というネーミングに思いを感じますね。

当協会の活動の一つに「お弁当学マスター認定講座」があります。特にキャラ弁を手作りすることについては、楽しいだけでなく、負の評価があることも受け止めなくてはいけません。代表的なのが「衛生面が心配」「栄養バランスが良くない」「手間がかかる」といった意見ですが、これらは知って学ぶことで改善できます。自分が学んで知ったことで、それ以前の知らずに作っていた自分と大きな違いがあると思います。知識がある人と無い人との差が大きいのです。
キャラ弁のリクエストを受けてから、勉強のためたくさんの本を読んで感じたのですが、情報が多すぎるのと、本によって少しずつ情報が違うこと。またお弁当に向かない食材が紹介されていても「なぜなのか」説明がないから学びにつながらないと思ったのです。

Q:「キャラ弁」のメリットは何でしょうか。

当協会のキャラ弁作りには、かわいさや見栄えだけでなく、日本の四季を背景にした旬の食材や行事食も取り入れること、主食・主菜・副菜の量と栄養バランスにも配慮すること、食品衛生の意識、できるだけ素手で触れずに作るテクニックなどを伝えています。その上で「かわいい」「楽しそう」「作ってみたい」といった子どもたちがもつ感想を発展させることで、食への興味づけになるのではないでしょうか。
最近のコロナ禍で機会がありませんが、以前は海外からの観光客にもキャラ弁作りのニーズが高く喜ばれました。中高校生や大学生もキャラ弁を作ると自分のものとまわりと見比べて笑い、夢中になって作ります。楽しいコミュニケーションの時間ができるからです。同じことが家庭内でも当てはまるのではないかと思います。

Q:お弁当作りのリーフレットを中学卒業生に配布したのはどのようなことからですか。

子どもが自分でお弁当を作ることにはたくさんの学びや発見があるので、協会としても推奨したい素晴らしい取り組みです。作るのも食べるのも自分ですから、少々不細工でも味付けがうまくできなくても構いません。作ってもらったお弁当を食べるだけでは気づけなかった、作る人の思いや食材への感謝と理解が深まります。
当協会があるのは東京都足立区で、リーフレットは今年度の区立中学校35校の全卒業生に配布しました。お弁当作りに関する基本的な知識とテクニックを、見てすぐ実行できるよう簡潔にまとめた内容です。キャラ弁ではありませんが栄養バランスがとれて見栄えがする「鶏そぼろ弁当」と「中華丼」の作り方を、前日準備から詰め方まで、写真付きの説明で分かりやすく工夫しました。さらにお弁当に向くおかず、おいしさを保ち食中毒を予防する工夫なども掲載しました。
充実した学校給食で知られる足立区の中学生ですが、卒業してからはお弁当が必要になる生徒もいるでしょう。そんな時に役に立ててもらいたいと願ったものです。

Q:学校の給食や食育についてはどのように感じていますか。

足立区の学校給食はとてもおいしく、子どもたちも楽しみにしています。学校から配布される給食だよりを参考に、私も家庭で作ることがあります。子供が考えた献立が給食に提供されることがあって、「今日は友達が考えたメニューだった」と喜んで報告してくれるなど、感謝しかありません。
お弁当作りからの提案としては、お弁当箱を各自が持参し、その日の給食を工夫しながら詰めてみるといった試みも勉強になるのではないでしょうか。