食育キーパーソン

「お米の出前授業」は地域への貢献から始まりました

生活協同組合パルシステム東京(以下、生協)は東京都内の小学校で開催する「お米の出前授業」を年間約150校で行ってきた。身近に田んぼがなく農作物について説明や生育指導ができる人材が限られている中で、苗植えから脱穀・籾すり、実食までの過程を体験しながら学べるプログラムが好評で、毎年のように招かれる学校も少なくないという。活動の経緯や現状について、活動を立ち上げた木方亮一さんと現在事務局として活動を支える藤巻政明さんに話を伺った。

木方亮一(キガタ リョウイチ)

木方亮一(キガタ リョウイチ)

生活協同組合パルシステム東京 商品・産直推進部部長。
1971年東京都生まれ。1996年パルシステム東京に入協。事業展開する中で生協らしい地域社会とのネットワークづくりの観点から「お米の出前授業」を展開。現在、商品や食育、食の安全、産直運動に関する業務を担当している。

藤巻政明(フジマキ マサアキ)

藤巻政明(フジマキ マサアキ)

生活協同組合パルシステム東京 商品・産直推進部産直推進課。
1970年北海道生まれ。2000年パルシステム東京に入協。前職のインストラクターの経験を活かし、受講する児童に楽しいお米の出前授業を行っている。現在、組合員の産地交流や産地の商品を紹介する業務を担っている。

Q:2021年度はコロナ禍にもかかわらず131校・園で開催されるなど好評ですね。

藤巻:校庭などの密にならないような広い空間で行うなど配慮して取り組みましたが、学校側も感染症予防には対策を講じていらっしゃいます。19年度末から続いている「学校の新しい生活様式」によって様々な学校行事や学習活動が自粛・制限され、我慢の生活を強いられている子どもたちに、少しでも体験的な活動をさせてあげたいという学校の配慮もあると聞きました。ちなみに2020年度は114校・園、19年度は164校・園で実施しました。
小学5年生が社会科で稲づくりを学習するのと併せてこの授業を希望されるのです。うれしいことに、外部から来た私たちの授業は新鮮に映るようで、子ども達には喜んで受け入れてもらっています。ほぼ毎年のように希望される学校が多く、校庭などオープンな場所での活動なので他の学年の子ども達も見ているらしく「5年生になったら〝お米の授業〟をやるんだ」と期待されているようです。不登校だった子どもがこの授業のために登校したという事例も担任の先生から聞きました。

Q:希望に合わせ3つのプログラムで時期・方法など柔軟に応じられているようですね。

藤巻:プログラムは「お米の学習・苗植え実習」(5~6月)、「脱穀・籾すり実習」(10~12月)、「試食・食べ比べ」(11月、現在は教材の提供のみ)と3つあり、年間を通じて複数のプログラム開催を希望される学校も少なくありません。また通常の授業以外に、土曜授業や祭日に、PTA行事などで親子の参加を希望される例もありますが、対応が可能であれば実施するように努めています。
朝食はパン食というご家庭も多く、米食は半数以下となっていますが、この授業ではお米の良さの話もしています。親子で参加された授業などでは子どもより親の方が真剣に聞き入ってくれます。

Q:活動のきっかけはどのようなことでしょうか。

木方:私が2006年に千葉で配送センター長を務めていた頃、周辺を歩いたところ、住宅街だった関係で騒音はセンターから聞こえるものばかり。地域と交流し地域貢献することを考えなければ存続できないと思い、地域交流祭を年4回開催しました。その後、別のセンターに異動してからも、植樹祭の開催など地域貢献を心掛けてきました。
2008年にグループ全体で取り組んだ「100万人の食づくり」の一環で「バケツ稲」の販売を始め、2010年には希望する学校や幼稚園・保育園に無料提供したところ、都内では9校・園から希望がありました。提供した学校の先生から「稲の提供だけではもったいない。お米の話を聞かせてもらいたい」といった意見を頂戴したことで、これも地域への貢献ではないかという思いにつながったのです。

Q:当初から現在のプログラムで始めたのでしょうか。

木方:最初の授業は2010年6月でした。急ぎ授業内容を組み立てたのですが座学だけで2単位時間でした。やはり実際の体験を組入れたいということから、学校の先生方とその都度打ち合わせをしながら検討し、2012年までにほぼ現在の内容に組み立てました。
藤巻:私は事務局を担当して約8年になりますが、その間でも接する子どもたちの変化を感じることがあります。もちろん個人差はありますが、特に最近は『しろかき』で土や虫に触ることを怖がり嫌う子どもが多くなっていると感じます。学校の他は塾や習い事、遊びと言えば室内にこもってテレビやゲームですから、泥んこになって自然の中で遊ぶ経験をしたことがないのかもしれません。そこで説明を工夫して「泥パックのように肌がきれいになるよ」とたとえ話にすると意欲的になってくれる。実際に、終了して手を洗うと手はすべすべになることから実感してくれるようです。

Q:その他に「PLAや食育リーダー」とはどのような取組でしょうか。

木方:PLAはパルシステム・ライフアシスタントの略で、パルシステム商品の物語や成り立ち、特徴、生産者の取り組みや想いについて、組合員に“組合員の視点“で伝える活動をする組合員講師です。食育リーダーは食育活動をすすめるため、食の大切さを伝えるほか、地域イベントや教育機関等への食育出前授業も行っています。某区立小学校から依頼を受け、「食育の日」で1年生から6年生までを対象に講演する機会もありました。
いずれも1年間ほどの講座を修了した方が「PLA」「食育リーダー」として認定され、毎年10人程度で、自分たちの自主企画や組合員から依頼を受けた各種講座などで講師として活動しています。