食育キーパーソン

手を動かして分かる食べ物のありがたみ

(一社)日本発酵文化協会が認定する「発酵文化人」の一人である加藤芽依さんは、発酵の勉強を続ける中で取り組んだ「味噌づくり」「醤油づくり」の経験から、「自分の手を動かしてはじめて発見すること、分かることが多い」と実感。子ども達への食育にも同様で、自分で作る体験をすることで日々食べているものがどのように作られているかが分かることから、食育にはもっと「作る体験」を取り入れることを提案している。

加藤芽依(カトウ メイ)

加藤芽依(カトウ メイ)

発酵文化人5期生、横浜市出身、3児の母。2014年から、夫の海外赴任に伴い家族で東南アジア3か国で暮らす。帰国後の2022年、海外で出会った「発酵検定」を受検し「発酵文化人」を取得。2023年5月「発酵マイスター」資格を取得。オーガニック、アロマセラピーなど自然療法への関心が強い。

Q:「発酵文化人」とはどのような内容の称号でしょうか。

毎年1回、(一社)日本発酵文化協会が主催で農林水産省が後援している「発酵検定」が実施されていますが、この検定の合格者に対して同協会が認定している称号です。同検定が初めて実施されたのが2018年で、私は2022年度合格なので「発酵文化人第5期生」になります。今年はオンラインのみの開催のようですが、私が受検した昨年度は会場とオンラインの併用で、私は会場で受検させていただきました。
受検するにあたり、発酵の基礎を学ぶ「ベーシック講座」を受講しましたが、その内容には日本の代表的な発酵食品が学べる「麴教室」「甘酒教室」「味噌教室」「醤油教室」があります。いずれも日常的に使用する食品ですから、知識・情報として学んでとても役立っています。

Q:発酵検定の取得はどのようなきっかけがあったのですか。

夫の仕事の関係で2014年から8年間、インドネシア、シンガポール、ベトナムに家族みんなで滞在していたのですが、健康であることがどれだけ貴重なことかを日々感じながら生活していました。日本国内のように、急な病気やケガでも時間や場所を問わずすぐ対処してもらえる環境が整った地域ばかりではありません。子ども達を育てるなかで、まず家庭でのファーストエイドができることが安心感につながることを強く感じていました。 それ以前から自然療法などに関心があり勉強したかったところ、シンガポール滞在中に現地の日本人コミュニティを通して、個人宅での手作り納豆試食会に誘っていただき、手作り納豆のほかに「発酵あんこ」をふるまっていただきました。納豆やあんこを作ってくださった方は、発酵プロフェッショナル保持者で、そこで初めて「発酵あんこ」と出会い「発酵検定」というものがあることを知りました。

Q:赴任先での食事と健康維持はどのように工夫されましたか。

できるだけ手作りしたいのですが、購入しなければならない食材もあり、その場合はパッケージの説明をしっかり読み込み使用材料などを確認するようになりました。さらに魚醤(ナンプラー)のような現地ならではの発酵食品があるのですが、子ども達も好きだったためよく活用しました。

Q:取得した発酵の知識は今後どのように役立てられますか。

発酵検定の次のステップに設けられている「発酵マイスター」を今年5月に取得できましたが、そのために学んだ講座で、醤油や日本酒の作り方の奥の深さに感銘を受けました。例えば醤油は、約1年かけて熟成するのですが、同じ材料・分量でも仕込んだ日の天候や熟成期間の温度管理などの差で味や香りに違いが生まれます。
麹菌の働きが発酵で、私たちは自然の活力を頂いている。その感動を伝えられる「発酵プロフェッショナル」という、さらに上位資格をいずれ取得したいと思います。
また自分が海外赴任で経験した失敗や知識も含め、今後の人たちに情報を伝えたい。観光旅行の情報ではなく、滞在し生活するための情報は意外と少ないからです。例えば大豆は比較的手に入れやすいので、日本からヨーグルトメーカーと納豆菌を持っていけば、自宅で納豆が作れます。医療機関だけに頼るのではなく、健康的な食事を心がけて日々の体調を整えることも選択肢の一つです。

Q:食育や学校給食に提案がありますか。

現在は3人の子ども達が都内の公立小学校に通い、学校給食のお世話になりとても感謝しています。学校からの給食献立表とお便りは玄関に掲示して、子ども達が登校前に必ずチェックして楽しみにしています。でも時々「今日は時間が短くて、おかわりできなかった」と残念がることがあることから、低学年の子ども達にはもう少しゆっくり食事できる時間があると良いと思います。
我が家では子ども達と果物を使って発酵シロップを作るのですが、自分の手を動かすことではじめて分かることがあると思います。味噌や醤油など普段から身近で、当たり前に食べているものが、どのように作られているかが分かります。そこから興味関心を広げて、様々なものを知ろうとするきっかけになるといいですね。