食育キーパーソン

日本の食料問題は世界とつながっています

「子ども達からは大人が思いつかないような発想が飛び出すことがあり、我々の方が驚かされます」と語る特定非営利活動法人栄養不良対策行動ネットワーク(NAM)代表の渡辺鋼市郎さん。小学校の出前授業で、身近な食品ロスから世界の貧困地域の子ども達の栄養不良の問題を考えてもらう活動を実施。栄養と食料の問題解決のため指導者・専門家の養成を行っているが、より若い世代から関心を持ってもらう必要があるため、子ども達への出前授業等に力を入れている。出前授業に取り組むNAMスタッフで管理栄養士の溝口喜子さんを加え活動について聞いた。

渡辺鋼市郎(ワタナべ コウイチロウ)

渡辺鋼市郎(ワタナべ コウイチロウ)

特定非営利活動法人栄養不良対策行動ネットワーク代表。アジア・アフリカの多くの国で国際栄養分野の専門家として活動。2014年に代表として団体を設立。

溝口喜子(ミゾグチ ヨシコ)

溝口喜子(ミゾグチ ヨシコ)

特定非営利活動法人栄養不良対策行動ネットワーク管理栄養士(スタッフ)。政治経済学部を卒業し企業に就職の後、再度大学に入学し管理栄養士資格を取得。国内のフードバンク、カンボジアの病院、現職を通じて国内外の栄養課題に取り組む。

Q:NAM設立の経緯はどのようなことからでしょうか。

世界の栄養不良(栄養失調)問題に取り組んで30年以上になります。豊かな日本国内で暮らしていると食料が乏しいことや栄養不良の問題など、遠い世界の出来事に思えるのですが実はつながっているのです。そのことを若い人達に知ってもらい、問題解決のため出来ることを行動してほしいとの思いから、学生や栄養士、NGOスタッフ等を対象にしたワークショップ(WS)を開催して30回位、学んだ人は400人以上になります。 WSでは貧困地域で活動できるための様々な生活知識やノウハウが学べるので、関心がある若い人達がここで知識を得て、現地に赴くためのステップとしています。10年前にNAMを設立し法人組織にしました。知識を与えるだけでなく実際の活動の場を提供するため数年前にウガンダに拠点を設けました。

Q:WSではどのようなことが学べるのでしょうか

例えば、栄養不良の子どもが多い貧困の地域でもその中には、他と同じように貧しい環境にありながら必ず栄養不良ではない子が少数います。その母親は、貧しくても身近にある栄養価の高い食料を与えているなどの工夫をしていると考えられるので、我々が調べてそれを地域に広めるという解決法があります。私たちが「ポジティブ デビアンス」(正の逸脱)と呼ぶ考え方です。 栄養が足りなければ他から栄養価の高い食料を持ってきて与えれば解決すると考えるのが普通ですが、その食料が尽きれば元通りです。そうではなく持続できることが大切です。

Q:出前授業はどのような内容でしょうか

南スーダン、ウガンダ等の開発途上国での活動経験がある栄養士等が「世界の栄養問題を考えよう」、「食品ロスと世界のつながり」等のテーマで、貧困地域での生活の実体験を交えながらお話しします。小学校の場合では1時間(45分)が目安で、内容は学校や担任の先生方の希望を聞いて組み立てます。 「栄養不良」と聞いても子ども達はイメージしにくいので、低栄養と過栄養などについて説明し、腕に巻いて太さを測り栄養不良を判別する「いのちのテープ」と名付けた測定道具を自分達で使う体験します。そしてなぜ栄養不良が起こるのかを話し合ってもらいます。NAMの取組を紹介し、自分達の暮らしと栄養不良との関連に気付いてもらい、最後には解決のため自分達が出来ることを考えてもらいます。

Q:授業で子ども達の様子はどのようですか

例えば「栄養不良がなぜ起こるのか」について話し合ってもらうと、「貧しくて食料を買うお金がないから」、「食べ物が近くにないから」など普通の答えばかりでなく、「水がないから食べ物が育たないのではないか」、「(作物や家畜に)病気が広がっているのではないか」など大人にない想像力です。子ども達の発想に鳥肌がたつ思いです。 また食品ロスをなくすために自分が出来ることについて、「お父さんと買い物に行った時、タナの奥から取ろうとしたのを注意しました」という報告があり、自分だけでなく身近な大人の家族にまで変容させる子どもの素直さを感じます。

Q:出前授業の他に、NAMの主な活動は

WS開催等を通じた栄養の専門家人材の育成、低栄養の問題に関する研究・調査と政府・国際機関・大学・NGO等と連携した政策提言、教材・マニュアル等の作成と配布などです。最近ではグローバルフェスティバル(外務省)のようなイベントにも参加、出前授業だけでなく積極的に若い人たちへの働きかけに取り組んでいます。 子ども達には、世界の栄養の問題が、日本の私たちの食料問題とつながっているということを知ってもらいたい。栄養の問題は国際問題です。外国からの輸入なしに国民に十分な食料を確保できない今日、日本だけが特別では継続しえないのですから。