出前授業は「食の意味」考えさせるきっかけ
東京都内の小中学校を中心に「食べ物のありがたみ」をテーマとして出前授業等の食育活動を続けているのは、食生活アドバイザーで加工食品診断士の荘司美幸さん。食べる物はいつでも有るのが当たり前なので、「食の意味」について考えることもない今日の日本の子ども達に、授業を通して食べることが「当たり前ではない」ことから考えさせる刺激を与えている。

荘司美幸(ショウジ ミユキ)
東京・墨田区生まれ。NPO法人すみだすくすくネットワーク代表理事。80年の歴史を持つ実家の飲食店を引き継ぐ他、新たな菓子店やイタリアンレストランを経営。また家庭料理のコツを柔軟に楽しく学ぶ講座「二階の食堂クッキング」を主宰している。
Q:出前授業はいつから活動されたのですか。
12年前、地域の小学校から6年生を対象に「食のありがたみ」といったテーマで話をしてほしいと依頼されたことがきっかけです。 授業では「食事の意味」、「食べることは生きること」などの内容で「食べ物、食べることについて考える」ことをテーマにしています。
Q:学校からはどのような授業を期待されるのですか。
「給食の残食が多いので、何とか改善したい」といった理由からの依頼が多くあり、授業では子ども達が自分で〝考える〟ように導いていきます。 子ども達にとっては、嫌いなものや食べ切れない食事は残すことが当たり前の結果なのです。頭ごなしに「好き嫌いをしてはいけません」と指導してもあまり効果は期待できません。「なぜ好き嫌いをなくした方が良いのか」、「食べ残しはなぜ良くないのか」を子ども達に考えさせることが大事です。
Q:具体的にはどのような話でしょうか。
例えば赤ちゃんの話をします。赤ちゃんは生まれてすぐ何をしますか?と聞くと「泣く」や「眠る」とか返ってきますが、正解は「お母さんのおっぱいを探す」です。
誰からも教えられていないのになぜでしょうか?それは人や動物としての本能だからです。では本能とは何でしょうか?
このように問いを続け「人はなぜ食べるのか」を考えさせます。普段は考えたこともないでしょうから、思考を揺さぶるのです。
また「食べ物はどこから来たのか」ということも考えさせます。お魚を釣った人、運んだ人、料理した人がいて、その魚の命を頂いているということから、「食べ物を残す」ことがどれだけ粗末にすることなのかを考えさせます。
Q:授業を通して伝えたいことは何でしょうか。
教えられたり命令されたりしてから動くのではなく、自分で考えて行動できること。子ども自身に食べる力、生きる力が身についていなければ将来がとても心配です。
お母さんが忙しくて朝ごはんを食べずに学校に来る子どもがいますが、今そこにある物を工夫して食べる、自分で解決することを考えられることが大切です。
Q:どのような教材を使われるのでしょうか。
食べ物がどこから来るのかを、私の子どもが描いた絵を使った自作の紙芝居を見せながら話をする他、私がずっと前からお気に入りの絵本で、自然界の食物連鎖をテーマにした『いわしくん』(文化出版局)を使っています。
また全校生徒に「食のありがたみ」をテーマに講演してほしいと依頼があった中学校では、食肉センターで働くお父さんをモデルにした絵本『いのちをいただく~みいちゃんがお肉になる日』(講談社)を題材にして〝食べること〟について考えてもらいました。
Q:子どもたちに育みたいことは。
「食べ物について考えられる人に」という願いが授業の私のテーマです。お母さんが作ってくれるいつもの料理が、出来上がって目の前に置かれるまでの背景に思いをはせ、自分の健康から地球資源や環境までトータルに考えられる、きっかけになるといいと思います。そして食べ物を残すことの善し悪しより、「残すことへの感覚」を麻痺させてはいけないと思います。
Q:食の現状について感じていることは何ですか。
自分自身が4人の子どもを育てる経験をした一方で、周りには子ども達に安全な食事をさせることに悩んでいる母親が大勢います。その母親達にそんなに悩む必要はない、完全無添加は無理でも〝なるべく〟安全なものをと考え、どうしたら楽できるのかを教えてあげたい。
また家庭だけでなく給食の献立にも時折ありますが「○○風シチュー」とかカタカナの料理名に捉われる必要はなく、特別な材料でなくても作れる「肉と野菜の煮込み」など普通の料理でいいと思います。