食育キーパーソン

スポーツの技術・体力を支えるため親子が食育の学びを

優れた「早寝早起き朝ごはん」運動を推進していることから、2024年度⽂部科学⼤⾂表彰を受けたバレーボールチームの新宿柏木クラブ。同クラブで40年以上にわたり指導をしている佐々木浩二さんは、食の大切さを日頃から子どもや保護者に伝え、検定受検という目に見える道具を用いて、継続することの大切さを訴えている。それは自身の体験から得た教訓であると同時に、日本の伝統食文化をしっかり受け継いでほしいという思いがある。

佐々木浩二(ササキ コウジ)

佐々木浩二(ササキ コウジ)

新宿柏木クラブ代表・監督。長崎県対馬市生まれ、18歳で東京に上京。女子栄養大学入試広報センター部長を経て、現在は女子栄養大学生涯学習センター事務部長、女子栄養大学出版部部長を兼務。小学生のバレーボールには21歳から関わり、東京都小学生バレーボール連盟指導普及委員長、常任理事などを歴任し、現在は指導普及副委員長。
Instagramは3万4500人を超えるフォロワーがいるなど、情報発信の影響力が大きい。

Q:新宿柏木クラブとはどのような団体ですか。

子どもたちの健全な身体と心の育成を第一に考えている、結成から50年以上の歴史を持つ地域スポーツクラブです。新宿・落合地区を活動拠点にした小学生のバレーボールクラブで、地域の学校体育館を練習場として週4回活動しています。バレーボールが好き、上手になりたい、やってみたいという子は、幼稚園年長から小学6年生まで誰でも入部できますが、東京都大会や全国の大会出場を目指して本格的に練習するのは3年生以上です。
東京都小学生バレーボール連盟主催の東京都大会に毎年出場しており、クラブのモットーは「努力は人を裏切らない」です。

Q:どのような経緯で「早寝早起き朝ごはん」⽂科⼤⾂表彰に至ったのでしょうか。

子ども達や保護者には日頃から食事の大切さについて話しています。なぜならスポーツも勉強も、基本は食事だからです。身体がしっかり育っていないと筋力が不足し、運動しても疲れやすくケガも多くなる。技術を習得する以前の問題です。小学生ではサプリなど使いませんから、栄養は食事から摂取するしかない。身長を伸ばすのも体重を増やすのも、食事でしかないのです。
食材を買い料理するのは基本的に保護者です。そこで親子での食育学習を推奨しているのですが、毎日頑張るのでは負担になるので、年1回の10月に「食育月間」を設けています。「この期間はまず親子で公式ガイドを学び知識を蓄えてください。そして家庭料理技能検定(4月から食生活と栄養検定に名称変更)という検定を利用して知識の定着を測ってください」と説明し、3年生以上は全員が検定試験を受検しています。
さらに当クラブが主催して年に数回、合宿しながら練習試合や勉強会を行うバレーボールの強化研修会を開いています。全国から毎回20~50チーム、300~500人が集まるのですが、子どもたちに「食事」、「早寝早起きの大切さ」、それは何故かを常に訴えています。始めて10数年になりますが「伝え続ける」ことが大事だと思うからです。

Q:なぜ食育を伝えることが大切だと思うのでしょうか。

まず自分の子ども時代から20代、30代だったころの残念な思いがあります。食育という言葉や概念も知らなかった時代でしたが、塩辛い魚の干物にさらにしょう油をかけて、それが美味しいと思って食べていました。子どもの頃は栄養バランスなど考えないし、郷土料理としてはそんな食事が当たり前でした。父も祖父も高血圧で、脳溢血などで亡くなっています。ところが現在の職場に転職したことをきっかけに自分の食生活を見直したことで、要注意の赤字だらけだった人間ドックの数値がほとんど改善されました。「食事は大切だ」と実感できたのは40歳代になってからです。
知育、徳育、体育の土台に食育があると言われます。しかしその土台であるはずの食育に、先生方が関心を持って真剣に取り組まれている学校は少ないのではないでしょうか。

Q:食育指導に検定を活用しているのはどのような経緯からですか。

「食育基本法」が制定された平成17(2005)年、私は女子栄養大学で入試部長を務めていましたが、同学では当時、小中学生対象の食育の普及を行っていなかった。その後、検定を所管する生涯学習センターに異動してから、小中学生に食育を普及したいという強い思いがあって、家庭料理技能検定を5級が小学生、4級が中学生の家庭科教科書にある内容を意識し、食育を網羅したものに作り替えたのです。それと同時に、まずは自分が長年関わっているクラブで取り組むべきだろうと考え導入しました。

Q:検定受検について保護者や子どもからはどのように受け止められていますか。

食事の大切さは日頃から語っているので理解されていますし、検定についても周知されていて、子どもの検定費用はクラブが負担しています。「受検ありき」ではないと伝えています。親子が一緒に同じ勉強をすることに意義があるので、検定は勉強の成果を確認するための道具なのだと言っています。期間を決めて練習前に親子が一緒に5級を受検しますが、問題は50問でランダムに出題されるので一人ひとりみな違い、問題は毎年入れ替わります。
「繰り返す」ことが大切なので合格しても、毎年受けることで、知識が積み重なっていくという理念があり、保護者にはそれをきちんと説明します。「合格」でも今年が80%だったら次は90%取れるように勉強しましょう、90%だったら来年は100%を目指しましょうと、そのための受検ですよと。各人のモチベーションになるのです。私は3回合格したから、次は4級を受けたいというのならそれはそれでOKです。

Q:親子が食育を学ぶことでどのような変化が見られますか。

検定については入部して初めて知った保護者も多く、勉強することで子どもにも食事に対する考え方が変わったとよく言われます。例えば食事の中で「おかあさん今日は赤色が足りないよ」「黄色が少ないよ」などの言葉が出るそうです。立派な知識の啓もうです。お母さんも意識してバランスよく作らないと、子どもから指摘されるようになったと。
またテキストには料理レシピが掲載されているので、5、6年生になると冷蔵庫を開けレシピを見ながら自分で料理する子もいるそうです。お母さんが仕事で帰宅が遅くなると先に作って食べている、良かったですと報告されることもあります。

Q:食育で特に大切にしたいことは何でしょうか。

食育で大切なのは、栄養のバランスを考えて食べること、日本の食文化や行事食を知ること、お箸使いなどのマナー等です。大切なことは受け継がれていくべきで、知識として伝えなければ、今のお母さん世代ではすでに伝えられていない部分が大きいのではないかと思います。