食育キーパーソン

食品の安全性を考える時、科学的な思考が大切

豆腐を作る「にがり」、アイスクリームの「乳化剤」や「香料」「着色料」は「食品添加物」であり、すべての加工食品に使用されている。家庭の食卓では加工食品が64%(総務省家計調査)を占め、加工食品が無くてはならない存在であるにもかかわらず、食品添加物が何となく「健康に良くない」「安全ではない」と思う人は少なくない。一般社団法人日本食品添加物協会の松村雅彦さん・川岸昇一さんに、ネガティブなイメージが先行する食品添加物について、学校教育への情報提供や科学的に考える視点の重要性等を聞いた。

松村雅彦(マツムラ マサヒコ)

松村雅彦(マツムラ マサヒコ)

一般社団法人日本食品添加物協会専務理事。

川岸昇一(カワギシ ショウイチ)

川岸昇一(カワギシ ショウイチ)

一般社団法人日本食品添加物協会常務理事(広報担当)。

Q:学校の食育に関して、日本添加物協会はどのような活動を行っているのですか。

当協会ホームページに学校関係者向けに「学校応援団」のページを設け、学校への情報提供や支援等の事業案内をまとめてご紹介しています。
また毎年、全国の中学校と高校に啓発資料を配布しています。授業やその他の活動の際に教材として活用して頂くためですが、中学校は小冊子『テンカちゃんの豊かな食卓』、高校には『もっと知ってほしい食品添加物のあれこれ』に案内文書を同封しています。

Q:毎年送付するのは、学校を重視しているからですね。

学校に毎年送付している理由は、法令上の変更等の他、時代に合わせて少し表現を変えるなどの改定箇所が毎年あるため。もう一つは毎年学校に案内することで、学校とのコミュニケーションを図れるところにも意味があると思っています。案内文書の裏面を申込み用紙として、ご希望の冊数を書いて申し込んでいただけば無料送付しています。
他に、2022年3月、消費者庁によって「食品無添加の不使用表示に関するガイドライン」が発出されたのをうけ、一般消費者向けの『食品パッケージの「無添加」「不使用」表示ってなぁに?』(2022年6月)を作成しました。ガイドラインは事業者向けですが、消費者の側もそうした問題に気づき理解してもらいたいという思いで独自に作成。2023年度からは栄養教諭や給食関係者にも知って頂くため給食センターと小学校に送っていますが、次回の配布ではより小学生に身近な内容の『テンカちゃんの豊かな食卓』に切換えようか検討中です。

Q:資料配布の手応えはいかがですか。

学校配布以外にも、大会や展示会、講演会での配布も行っており、学校や自治体などからの追加の送付希望も多数いただいております。『テンカちゃんの豊かな食卓』が約6万部、『もっと知ってほしい食品添加物のあれこれ』が3万部、『食品パッケージの「無添加」「不使用」表示ってなぁに?』4万部で、年間で約13万部くらいを配布しています。

Q:冊子の配布以外にはどのような取組をされていますか。

2023年度からSNS、TikTokで動画配信を始めました。今年2月からはX(旧Twitter)に切り替え、食品添加物に関するクイズを月1回更新でスタートしました。TikTokは対象を小・中学生とし、Xでは高校生以上をターゲットに考えています。
まずはSNSで発信しておくことで、調べ学習等で検索した時にその情報がヒットすること。そして協会のホームページに誘導することが目的。その手段として、興味を持ってもらうために動画やクイズ形式にしました。ホームページコンテンツの「添加物Q&A」は内容がとても充実して、食品添加物について世の中で話題になる大抵のクエスチョンが網羅されています。

Q:勉強や調査に関する相談ではどのような事例がありますか。

近年では東北の高校から毎年、生徒10数人を連れて説明を聞きに当協会を訪ねて来てくれます。また生徒が自主的に研究テーマを決めて問合せて来る例が増えています。
23区内小学校に案内して夏休み「自由研究教室」を毎年開き、60組くらいの親子に参加してもらっています。体験を通して食品添加物について正しく理解してもらうことが目的で、香料のにおいをかいだり、ゲルを触ったり、身近に感じてもらう内容です。そして同伴される保護者が添加物を正しく理解されてない方が多いので、子どもさんと一緒に16分間のDVDを見て頂いています。1回2、3組なのでしっかり対話でき、納得してもらう機会になっています。

Q:学校に情報を発信する目的は何でしょうか。

保健所、消費者センター等が地域で開くような講演会や勉強会に呼ばれることが多く年間約20件位行きますが、参加者の8~9割が地域の中高年者です。これまで生活してきた中で得たであろう知識を基にして発せられる質問や意見を聞くと、食品添加物については多くがマイナス情報で、根拠のないものや誤ったものです。
大人になると「何となく添加物は悪い」という風潮に染まってしまう方が多くなりがちです。お菓子や清涼飲料水、加工食品等は身近にあって生活を豊かにする貢献をしているもので、その恩恵を受けているのに。
小学生くらいの若い方に向けて積極的に、正しい情報を伝えていきたいのです。

Q:伝えたい正しい情報とは何ですか。

食品添加物は「安全で有用」でなければいけないということです。食品添加物には「安全性が実証または確認されるもの」、「使用により消費者に利点を与えるもの」でなければ認められないという規定があることを知って頂きたい。世間では「安全性に疑問が有る」などと扱われることがありますが、そもそも安全でなければ食品添加物とは認められないものなのです。
当協会ホームページや高校向け冊子『もっと知ってほしい食品添加物のあれこれ』に分かりやすい説明を掲載していますが、食品が安全かどうかについては全て量によるのであって、どのような食品でも多量に摂取すればそれが天然物由来でも害があります。
大事なのはリスクのトレードオフという考え方。保存料は食品添加物で危険だからと使うのを止めたら、食中毒の発生、食品の廃棄や食品ロスが増大になってしまうかも知れないという事態が予想されます。これをどう考えるのかというのも一つの食育ではないでしょうか。ゼロか100かではなく、一方を取ることで失われるものがある、そのバランスをどうとるかは学びのテーマだと思います。